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四四十六茶小説



ぶらっくじぇみに 〜炎に沈む夢〜



「………」

小さな雲がまばらに浮かび、無数の星が空に煌めく、満月の夜。
ふわふわとした茶色い癖っ毛の髪を夜風になびかせて、紅の瞳でただ無心に空を見上げる。
トレードマークともいえるダークグレーの帽子は今はない。部屋に置いてきていた。

「…あの日も、こんな夜だった」
少年は、静かに呟いた。

彼はここ三年間の記憶がない。その間に起こった何かが起因して、正常には喋れない。



そういうことになっている。そういうことにしてあるから。



実際のところ、記憶をなくしてなどいない。言語機能も多少の問題こそあれ、ゆっくり話す分には支障はない。
自分と共に生き残った、いわば姉弟にも等しい幼馴染が断片的な記憶喪失になっていたから、合わせているにすぎない。
穏やかに微笑んでいれば敵を作ることもあまりないから、仮面を被ったように微笑っているだけ。



三年間、過ぎた。彼の隠した『何か』をはっきりと『知っている』のは、居候しているこの山荘の管理人だけ。
保身も図れるとの彼の勧めで魔法学校に入学したが、そこには勘の鋭い人物が数名いた。
校長と呼ばれた青い服の老人、マドレーヌという名の隣のクラスの担任、緑の髪の少女、紫の服の姉弟、長い銀髪の青年。

服と瞳の色が違うだけで、自分達とまったく同じ姿をした二人。
形こそ違え、自分達のように過酷な一時を過ごした二人。

…かつては、その存在を忌まれた二人。



「…忘れない。あの日の空も、炎も、…壊れていった仲間も、おじいさんも」









ぶらっくじぇみに 〜炎に沈む夢〜









話は三年前…まさに、少年の独白にあった時間へと遡る。
失ったことにしてあるが、ひとつたりとも曖昧な点を残さない記憶をたどり、少年は独り呟き続けた。






…そう、忘れない。

あの日僕らは、モンスターに襲われて全滅した街から二人で逃げてきた。
いつもはクールなくせに、いざっていうときは怖がりなロゼに手を引かれて。
行く当てもないところを、捕まった。



『…おはよう。気分はどうかな』
「………」
気付けば、どこかの部屋でロゼと二人、寝かされていた。
「…ここは?あなたは誰?」
『ここは、人の可能性を研究する場所だ。私は、ここの研究の責任者…ということになっている』
僕がそう呼びかけると、彼は答えた。
『…この女の子は?君と一緒にいたようだが…知り合いか?』
「幼馴染…です」
『…そうか。君達はまだ本調子ではないはずだ。しばらく休むといい』
「…ありがとう…ございます」
彼は、何故か申し訳なさそう…なんてものじゃなく、顔一杯に懺悔の色を浮かべていた。

この時既に、僕らの体には手を加えられていた。それを僕ら自身が知るのは、もっと後になる。



妙に頭が冴えている。思考に入り込む雑念がない。そう感じ始めたのは、連れてこられてから半月程度経ったある日だった。
頭の回転が速くなったり、見たものを忘れなくなったり、周囲がスローモーションのように感じることもあった。
ロゼもまた、投げようとして強く握ったボールを潰してしまったり、速く走れるようになったと言う。
当時の僕らには、さして疑問はなかった。それが普通だと、誰でもできることだと思っていた。

『彼らに本格的な実験をするのは、もう少し待ってくれんか?まだ安定しきっていないのだ』

廊下を歩いているとき、不意にある部屋からそれは聞こえた。聞き間違うはずもない、おじいさんの声。

『だが、あの2人は唯一の成功作ではないか。彼らからデータを採らなければ、いつ誰から取る』
『…そう、だな。あと1ヶ月…それだけ待ってくれれば、準備を終わらせられるだろう』
『1ヶ月か。それ以上縮められんか?』
『無理だ』
『わかった。では、そのころにまた来る』
『……』

何の話をしているのか、当時はよくわからなかった。
…今思い出してみれば、おじいさんはああやって実験を先延ばしにしていたのかもしれない。
ただ、その時から疑問を持った。自分たちが普通なのではなく、彼らのほうが普通なんじゃないかと。



おじいさん達はボールを握り潰したりなんてことはできないし、走り回るロゼに追いつけなかった。

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