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四四十六茶小説



闇黒の狂姫 〜変遷〜



「…人は死んでも、魂だけが誰かと一緒にいることもあるという…」
黒い服、黒い帽子。毛先がくるくるとカールしている、ウェーブがかった長い金の髪。

「だが、貴様は何処にもいないし…触れないどころか、気配一つ無い…」

暗く黒い宵闇の中、少女は宿屋の屋根の上、静かに佇み星を見る。



「シュイ…。貴様は今も、この星にいるのか…?」
その台詞こそ、高圧的。ただ、口調にはいつもの覇気がなく。
「それとももう、どこか遠くまで行ってしまったのか…?」
足をぶらつかせ、切なそうに月を見上げる。

「…答えろ、シュイ…」



風の星、コットン。チモ・タボ王に呼ばれてみれば、ジン・レオを止めろとか。
何を今更。奴のところに行くなどと、ずいぶん前から決めていたことだ。
奴を殴り倒して、あの女も殴り倒して、警察の連中もルーブーも殴り倒す。
そうでもしないと、私の気がすまない。

そこまで考えて、ふと何かが脳裏をよぎった。



―そうすれば、気は治まるのか?まだ足らなければどうする?

そうして、また考える。



ならば、警察も海賊も、完膚無きまでに叩いてしまえばいい。
それで海賊は壊滅するだろうし、はぐれの残党は片っ端から潰せばいい。
警察は再編を余儀なくされる。多少は真っ当な連中が増えるだろう。
でなければ、また叩き潰すだけだ。あの連中ばかりに任せては置けんからな。

…そうだ。そうやってこの銀河を変えてやろう、私の手で。
支配だろうと押し付けだろうと関係ない。害悪はすべて、私がどつき倒してやる。

「…よし」
ならば、やるべきことは一つだ。そう言わんばかり、彼女の言葉に覇気が戻る。
「…なってやろうじゃないか。世界中が、名前だけで私を怖れるほどの存在に」



「なるほど。それがお前の行く道か」
背後からの声。
「…いつからだ?」
「最初から」

迂闊だった。これほどの男の気配に、気付きもしないとは。

「…それで、どうやってそこに行く気だ?」
振り返ってみれば、そこにいたのはやはり、黒いバンダナの男。
「手始めに、貴様から本格的に教えを請おうと思うが?」
「…。教えるべきことは、全て教えたといったはずだがな」
「なら盗む。あるいは、もっと教える気にさせてやるさ」
即答を返すと、男はかすかな苦笑いを浮かべた。
「そう、それでいい。それでいいが…何故、俺任せにしておかない?
少なくとも、これから取ろうとしている行動は、俺とおまえで一致しているはずだ」

「愚問だな。それがたった今から私の目的だからだ。海賊を懲らしめ、警察も懲らしめる、それが私の決めた道だからだ」
「天に代わって…ならぬ、闇に代わって成敗いたす。そんなところか」
そういって、男は笑った。



「…それはともかく、だ。どうして貴様がここにいる」
「ほんのついでに見に来ただけさ。愛弟子がいつまでもめげていないかどうか、な」
「言うじゃないか。一昔前ならともかく、今の私がいつまでも落ち込んでいるとでも思うか?」
「ああ」
「な」
あっさりと肯定。思わずがくっと脱力する少女。
「…貴様なー」
「ヒトはどんなに変わり果てようと…根底の部分、その本質は決して揺るがない。
そこが何か別の物になってしまったとき、その生き物は既に死んでいる」
「………」









「…なあ」
「なんだ」
どれだけ黙って並んでいただろうか。少女が不意に口を開く。

「…シュイは…奴はまだ、ここにいるか…?」
「どうだろう、な。案外、おまえにとり憑いているかもしれないぞ?」
「バカを言うな。…貴様は時々、本当にわけのわからないことを言う」
何を言っても、男はただはぐらかすような笑みを浮かべるだけ。

「はてさて。…だが、気付かないか?」
「?」

「ここに戻って来てから、『復讐』という言葉を口にしたか」
「…?何を…言っている?」
「おまえは知らず知らず、それを口にするのを躊躇っている。
その結論に達しようとするのを、自ら拒否している。
…そう、まるで誰かが『それはダメだ』と、説得しているかのように」



はたと気付いた。
『―そうすれば、気は治まるのか?まだ足らなければどうする?』

声が重なった。



『…どんなに離れていたって、俺達は一つだ。…同じ場所にいる』



「…ッ!!」









「…だろう?」

「シュイ…シュイっ…!!」

泣きじゃくりながら、少女は誰かの名を呼び続けた。

「どう、してだっ!どうして…今まで返事をしなかった!」

「ここに、いると…わかっていれば、っ、わかっていれば…っ!」

「……、おまえを…おまえ、を、置き去りにはしな…っ、しなかったのにっ…!!」



この後自分が何と言っていたか、少女自身は覚えていない。
ただ、何かが変わったような気がした。漠然と、しかし確かに。















「…っ?」
気がつけば、少女はベッドの中。

「…夢…?」
体を起こせば、他の皆はまだ寝ている。

窓の外では、今ようやく昇ろうとしている太陽。
「夜明け…か」



太陽の光の中。
「…!」

一瞬。ほんの一瞬。
「…そうか」

白い光が、ぼんやりと人の輪郭を形作っていた。



「これからは…ずっと一緒、だな。あの時の約束どおり」

そのシルエットは、見覚えのある帽子が印象的だった。









『リーベ』
『何?』
『これからは…ずっと一緒だぞ、何があっても』
『うん』
『もし離れ離れになっても…。絶対に、おまえのところに行くからな』
『うんっ!』









「…ぁぁ…リーベ。起きてたのか」
感慨に耽っていると、赤い髪の少年が突然起きた。
「…ポモドーロか」
「珍しいじゃねぇか。俺より早く起きてるなんて」
「たまにはそういうこともある」
軽く跳ねるようにして、とん、と小さく足音を立ててベッドから降りる。
「ポモドーロ」
「あ?」

「…あの女…絶対に連れて帰るぞ」
「…おまえ、まだ先生のこと『あの女』呼ばわりかよ…?」
「それがどうした。とにかくあの女、一発ぶん殴って言い聞かせてやらなければ気がすまん。
『生徒を放り出して、自分だけ死にに行くようなマネは止せ』とな」
にやりと、いつもの笑みを浮かべて、リーベは言う。

「…先生のことなんかどうでもよくて、復讐と八つ当たりのためだ…とか言ってなかったか?」
「残念だな。それこそもうどうでもいいのさ」
「?」
「ふふっ。それより、こいつらを起こさなくていいのか?今日は早めに出発するんだろう?」
適当に町をうろついて待っているぞ。言うなりリーベはさっさと歩き出す。
「ぁ、ちょ、おい待てって!」
「待ち合わせのマナーを知ってるかー?待たせるほうが悪いんだぞー?」
高らかに笑いながら、彼女は宿を出て行ってしまった。

「……。変なリーベ」
ひとつ首を傾げ、しかしすぐに仲間を起こしにかかる。

「おらおらぁ、起きやがれぇい!朝メシ食うヒマなくなるぞー!?」









「…」
まだ夜明けということもあってか、町を歩く人はほとんどいない。
「…私の手で、全てを変えてやる」

返事を返すものはいない。聞いているものがいるかどうかすら怪しい。
だがリーベは、語り続けた。

「貴様のような、理不尽な理由で警察に殺される奴が、二度と出ないように。
海賊も警察も、私の手で叩き直してやる。…なに、もう復讐だか何だかは考えてないさ。
私はただ、殴り飛ばすだけだ。全てを壊して、一から真っ当な形に作り直せるように」

利き手の左手を、ぎゅっと握る。

「…そこで見ていろ、シュイ。冥土の土産には、私の武勇伝を五万と積んでやるぞ」



―…ああ。期待せずに待ってるよ。



「おーい、リーベ!」

後ろからの声。ポモドーロが皆を引き連れてやってくる。

「支度、できてるぜ」
「ああ。…なら、行くとしようか」
少女は、微かに笑った。









...fin

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