闇黒の狂姫 〜ニーベ・ケジャー〜
「…ふ。仮にも宇宙警察の署長ともあろうものが、落ちたものだな?」
「く…子供ふぜいが…!」
「強がるのも大概にしておいたらどうだ?その子供とやらも止められん無能の分際で」
黒い帽子の少女が、嘲るようににやりと笑う。
「それとも…。このままトドメを刺して欲しいか、ニーベ・ケジャーとやら?」
「言わせておけば…っ!」
少女と相対する男性…ニーベが魔法の詠唱を開始した。
「うわわわ、また来るよ〜…!?」
「ったく。避けるのも一苦労だってのにどうして挑発なんてするかね?」
慌てるジャスミン、ぶつくさいいつつ身構えるポモドーロ。
「…アクアグラッセ!」
発生する巨大な氷塊。それは放物線を描き、少女に襲い掛かる。
「オイ、ナニツッタッテンダヨ、リーベ!?」
「…」
カフェラテが呼びかけるも、ソレを聞いている様子はない。
氷が砕け散る音。
「リーベっ!?」
砕け散ったカケラのせいで、まだリーベがどうなったか確認できない。
「ははは…!怖気づいて足が竦んだようだな!?」
動かなかった彼女を、ニーベは笑い飛ばす。
次第に視界が利くようになるそこに、彼女の姿が。
「残念だな。そこまで腐った目をしているとは…同情に値するよ」
しかし、誰の目にも映ることはない。
「…『攻めるだけが魔法ではない』…」
そこには、ある物体が彼女の姿の代わりに存在した。
「…ヘルダイス…?」
ニーベがその正体を確認すると同時に、闇のブロックは硝子のように、内から外へ砕け散る。
「今のが、その最たる例だよ。ある男が十八番としていた使い方だ」
果たして、そこにリーベはいた。無傷のまま腕を組み、艶然と微笑む。
「…!?なあ、今の何だよ!」
「知らないノ!リーベがあんなことできるなんて、ボクも知らないノ!」
「…ヘルダイスノマリョクノチカラバハ、ウチガワデハナクソトガワニハタライテイマシタ。
オソラク、マリョクヲソトガワニムケルコトデ、マホウニタイスルソウサイリョクヲキョウカシ」
「だぁ!俺にもわかるように説明してくれよ!!」
「落ち着いて」
なんか微妙にずれたことで論争する男どもを、一喝するシュガーの声。
「結論から言うと、リーベはヘルダイスをバリア代わりに使ったの。
魔力の向きを内側から外側へ変えれば、中にいても自滅しない。
しかも外に向かう魔力のおかげで、魔法も物理的衝撃もある程度相殺できるわ」
「へぇ?でもそんなこと、魔法学校の生徒ができるもんなの?」
シュガーの説明を聞いても、ジャスミンは首を傾げる。
「やろうと思えば、できないこともないそうよ。ただ、コツを掴むまでが大変だって言ってたわ」
「ふぅん。リーベって相当な天才かもね?地の星じゃ、あんなことしなかったよ?」
「…もしかしたら、今のリーベはかなりイレギュラーな魔法使いなのかもしれないわ。
あそこまで性格が捩れるほど大きな心境の変化…感情の爆発をきっかけに、魔力を極端に増幅させたのかも」
「…感情の爆発、ね…」
「シュイを本当の兄みたいに慕ってたからね。ソレを目の前で殺されて、何かのタガが外れたんだわ…きっと」
「ソレデモ、セイカクガカワルナンテコトハ、フツウナイダロ?…ソノヘンガ、イレギュラーナンダロウナ」
「くくくッ、どうだ?たかだか6人の子供にやられているザマは?」
「…!貴様ァーーーッ!!」
バカにするように哂うリーベに、ニーベは激昂し突撃をかける。
「…は、見下げ果てたヤツだ。暴れるだけの力と書いて暴力と読むんだぞ?」
振るわれる剣はどれも今まで異常に鋭い。だが、今までのような華麗さ、精巧さは姿を消していた。
『当たらなければどうと言う事はない』。その言葉を証明するように、ニーベの剣はリーベを掠めもしない。
「貴様ごとき小娘に…負けなどするものかぁッ!」
「…ふん。貴様は確かに強い。その剣術も含めて、今の私などでは及ばんさ。
…だが、そうやって吼えてるうちは…自らの力に溺れて滅ぶのみだぞ、愚か者が!!」
そして一喝。
「…、まだそれを言うか!小娘ごときが!!」
一瞬動きを止めるものの、負けじとニーベも叫ぶ。
「…理解できん程、頭に血が上ってるようだ。…なら、そんな血など抜き取ってくれる」
「ほざけーっ!!」
がきんっ!!
「…っ!?」
「…ハッ。ザンテツ(斬鉄)ハサスガニデキナイヨウダナ?」
2人の間に割り込み、ニーベの剣を受けたのはカフェラテだった。
かざした左手で刃を鷲掴みにし、ニーベが押しても引いても、剣を離さない。
カフェラテに表情があったとするなら、きっとすぐ後ろのリーベのように、不敵に笑っていることだろう。
「よーし、そのまま押さえてろカフェラテ。こいつにトドメを刺してやる」
「アイヨ、マカシトキナ」
「き、貴様…っ!離せ!!」
―闇の閃光、雷鳴の一矢。暗雲より射放ちて貫け―
リーベの周りに、急激に闇が集まる。
何らかの形を成していく様は、今にも牙を剥かんとするかのよう。
瞬間、急にカフェラテが剣を横にねじって離す。
「ぐっ!?」
バランスを崩すもすぐに構えなおし。
だが、既に手遅れ。
「ハルシネートダーツ」
10もの矢が、ニーベを貫いた。
「…終わり、だ」
倒れ伏すニーベに一瞥をくれると、リーベは彼に背を向けて。
「…が、くっ…。…殺さん、のか…?」
不意の声に、出そうとした足を止める。
「…殺さないのか、だと?…くくく」
そして笑うのだ。さもおかしな事だと言わんばかり。
「殺人ほう助など、片腹痛い。貴様、それで本当に警察か?」
振り返らない。だからニーベからは、彼女の表情は見えない。
「…ひとつ、受け売りの話をしてやろう。
その男曰く、『魔法とは望みの具現、魔力とは意志』だそうだ。
転じて、『忘れぬもの、貫くものこそが真に強い魔法使い』だそうだ」
「…?そんな話をして、どうしようという」
「私はただ、そういう話を貴様に投げてよこしただけだ。投げた後のことなんか、私は知らないさ」
そこで初めて、リーベは肩越しにニーベを振り返る。
「…だが、わざわざこんなことを言った意図くらい、察してほしいぞ」
リーベは不敵な笑みを浮かべ、ニーベの目をじっと見ていた。
「ニーベ様ッ!」
ほどなく、ニーベの部下が数名現れた。
「そいつは持って帰るといい。邪魔するヤツはみんなそうなると伝えておけ」
「ひ…!?」
ひと睨みしただけで、彼らはニーベを連れて逃げていった。
(あの小娘…思い出せ、というのか?警察に身を置く理由を。何を信じてこの道を歩いてきたかを)
「ニーベ様?いかがなされました」
「ん?…いや…なんでもない」
「そうですか…。しかし、命があるだけ何よりです」
「その通り。生きてさえいりゃ、何でもできますからね」
部下がヘルメットの下でどんな表情をしているのか、ニーベには見えない。
(…そうか。あの男、だから宇宙警察を『見限った』のか)
だがそんな部下を見て、彼はふとそんな事を思う。
「…無様だな」
「は、申し訳ございません。我らがふがいないばかりに、署長の手を煩わせ」
「いや…無様なのは自分自身だ。…何故、今までずっと忘れていたのか」
「は…?忘れていた…でありますか?」
「決めたぞ。今こそ、かつて信じた正義を貫くときだと…」
「…署長?先程から、何を…?」
「なに、気にするな。…傷が治ったら、風の星へ行く。留守を頼むぞ」
「はッ!」
…そういうこと、なのだろう?リーベとやら…
...fin