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四四十六茶小説





休みの日の、昼さがり。

日は高く、はるか頭の上。



ばさり、ばさり、羽の音。

ふわり、ふわり、空高く。



やがてゆっくりと降りるその姿は、さながら羽根かはなびらか。

風に揺られて、ゆっくりと。ふわふわ、ぱさり、舞い降りる。









そこは、花畑。

少女が見つけた、『秘密の場所』。

たまにここに来ては、花を眺めたり、摘んだり。



「…ふふっ」
理由もなく、笑みが零れる。
ここにいると、そんな気分にしてくれる。

寝転がって、歌なんて歌ってみたり。
時々やってくる小さな動物を抱き上げてみたり。






「…?」
「…!?」

だからなのだろうか。眠たげに花の海から起き上がるその人に、彼女は気付いていなかった。






「…ぁ、ぁ…!?」
「…何をしてる?こんな花ばかりの場所で」
まあ、キミみたいな儚げな女の子には、よく似合うけどね。目の前の彼は、笑って言う。
「…っ…」
深呼吸。…うん、だいぶ落ち着いた。
「…あなたこそ、ココで何、を…?」
「昼寝だ。ここはキミ以外、ほとんど誰も来ないから」
腰まで届く長い後ろ髪をひとつ括りにして、左右に分けた前髪を無造作に下ろして。

オリーブには、彼をいつかどこかで見た覚えがあった。なのに何故だろう、思い出せない。

「…どうした?」
「いつか、あなたと会ったような気がして」
「気のせい…じゃないか?ここしばらくは、魔法学校には行ってないから」
「ぇ…」
魔法学校。確かにそう言った。

「…私が魔法学校の生徒だって、知ってたの?」
「教師をやってる知り合いから、話を聞いてはいたからね。
話の中の生徒の1人がキミに似ていたから、生徒じゃないかって思った」
それが、どうかしたか?彼は特に動じる様子もない。

「………」
オリーブの目には、動じないのがむしろが怪しいと映り、心を読んでみる。

―面白いものだ―
読めたのは、それだけ。他は関係の無い思考ばかりだが、巧妙に、核心を隠している。

何か腑に落ちない。そう思ったオリーブは、もう少し突き詰めてみることにする。



「何を考えてるかわからない、ってよく言われない?」
「ぇ?…ああ、言われるな。長いこと一緒だった連中からも言われるよ」

「物を隠すの、上手じゃない?」
「隠れるのには自信はあるけど、どうかな。見つけられたことはあまりない」

「…ニンジャ、って知ってる?」
「そこらで言われてるほど格好いいモノじゃない。結局は、スパイ兼殺し屋だ」

疑問が確信に変わる。…まだわからないことはあるけど。

「そんなに質問ばかりしてきて、どうしたんだい?」
「…コレで最後だから」






「あなた、グレープ?」
「…気付かないと思ってたんだけどな」
普段のオレとは、態度がかなり違うからね。前髪を後ろにやり、オールバックに整える。

「…いかにも、俺はグレープだ」
最後に後ろ髪を縛っていた紐を解くと、いつもの無表情な彼がそこにいた。









「…多重人格、なの?」
「どうだかなぁ。裏表みたいに思われることはあるけど」
髪を元に戻し、2人で木陰に座る。葉っぱの隙間から漏れてくる木漏れ日がまぶしい。
「…どうしてこんなことを。自分を偽って私と話したりなんて」

「違う。今のオレが、むしろ素だよ」
「ぇ?それなら、どうして…?」



「…気付かないだろ?オレがグレープだって」
穏やかで優しい微笑みで、彼は笑う。



「…呆れた。意外と悪戯が好きなのね」
「悪いか?」
知らず、堪えきれぬ笑みが漏れ出す。
「…悪くないよ。むしろ、グレープがそんな性格だって知って、びっくり」

2人の笑顔は、ある意味で同種のもの。
独りであることの悲しみを知り、独りでないことの喜びを知る、慈愛を内包する笑み。

「…ふぁ…」
不意に、オリーブが欠伸を漏らす。
「眠くなったか?」
「…うん。昨日は遅くまで起きてたから」
「………」

とん、とん、とん。ゆっくりと、規則的に。子供をあやすように、グレープはオリーブの背を叩く。

「…寝るといいさ。元はオレだって、そのために来たんだ」
「……、うん」
オリーブはしばらく景色をぼんやりと眺めていたが、そのうちうとうととしはじめる。



「…おやすみ、オリーブ」
まるで魔法か何かのように、その言葉を聴いたオリーブの意識は、すっとどこかへと沈んでいった。















「…ん、ぅ…」
目を開くと、オレンジ色の花畑が見える。
それに何故か、彼女の目に映る景色は90度近く横に傾いていて。

「…ん、起きたか?」
「…!?」
つまり、膝枕。

「よく寝てたぞ。そんなに疲れてたのか?」
出迎えたのは、彼女が居眠りしてしまう前と同じ微笑み。
「…ぁ、わた、私どれくらい…?」
慌ててばっと飛び起きて、頬を赤く染める。
「…さぁ、な」
マドレーヌのような、悪戯っぽい笑みに変わった。



「…さて」
しばらくして、グレープは立ち上がる。
「帰るの?」
「色々あるからな。ここで寝てばかりいるわけにも行かないさ」
「それ、ここで寝てばかりいるみたいな物言いだよ?」
「ああ。ずいぶん前…3ヶ月ほどかな、そればっかりだ」
「…うー」
オリーブがこの花畑を見つけたのも、それくらい前。秘密だった場所は、秘密でなくなった。

「…そう不満げな顔をするなって。1人で秘密にできなければ、2人で一緒にすればいい」
「ぇ?」
きょとんと、オリーブはグレープを見上げる。

「ふたりだけのひみつ、ってヤツさ」
「…何を、秘密にするの?」
「この花畑と…後は、オレが元々こんなヤツだってこと」
「…ふぅん…。秘密、なんだ?」
にこり。オリーブはさっきのグレープみたいに、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「バレたら面白くないだろ?だから、秘密だ」
「…うん。ふたりだけのひみつ、だね」



不意に、強く風が吹く。
「っ」
思わずオリーブは目を閉じる。



「…?あれ…っ?」



グレープの姿は、もうどこにも見当たらなかった。















次の日、マドレーヌに用があったオリーブが職員室に行った時のこと。

「…そういうわけだ。行ってくれるか?」
「了解だ。…夜には戻る」
「頼んだぞ」
何故か、ブレッドの近くにグレープがいた。

「…オリーブか」
「グレープ…どうしてここに?」
「…秘密、だ」
珍しいことに、グレープは小さく、ふっと笑う。
すれ違いざまオリーブの肩をぽんと叩いて、職員室を出て行った。

―2人だけの、な―



「…オリーブ?」
「ぁ」
用事を思い出し、彼女の元へ駆け寄る。









そして今夜も、緑の翼が飛んでいく。秘密の場所めがけて。









たとえば、そんな日のお話。

一休茶話『ふたりだけのひみつ』

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