AIで普通の動画を3D動画に変換する
四四十六茶小説





「ふれーくぅ。ふれーくってばぁ」
「ぅー…?」
机に突っ伏している白い帽子に、女の子が構っている。

肩を掴んでゆさゆさ揺らしてみたり、背中とか頭に軽くねこぱんちしてみたり。

「…ふみゅう」
「ねーなーいーでーよー」

でも、起きない。

「ふぅーれぇーえぇーくぅー」
「まだ朝じゃな…もすこし…ねかせ、て」
くーすかくーすか。そんな擬音が聞こえそうなほど。



「…もう。フレークったら」
何をやっても起きてくれないフレークを見下ろして、キャンディは幾度めかのため息をつく。



「ぇえ?まだ起きてないのかぁ?」
昼食の為にいち早く戻ってきたらしいキルシュが、2人を見つけて寄ってきた。

「そーなのよー。全っ然起きてくれないの」
「学校来た時からこんな調子だったんだろ?夕べ何かやってたんじゃねぇの?」
普通は放っときゃ自然に起きるんだけどなぁ。ぼやくキルシュ。
「…何か知らない?寝てるヒトを起こす方法とか」
「とは言ってもなぁ。まさか殴って起こすわけにもいかないし」
「うーん…やっぱり自然に起きるのを待つしかないかぁ」
はぁー。もう一度、深くため息をつく。

「…そういえば、なんだってそんな必死に起こそうとしてるんだ?」
「んー?今日ね、放課後に買い物に出かける約束してたの」
「…ああ…買い物、ね」
「?」
視線を逸らして俯くキルシュ。ソレを見て首を傾げるキャンディ。
「とにかく、授業が終わるまでに起きてくれないと、取り消しになっちゃいそうでさ」
そうなると彼女としてもつまらないらしい。後ろで結った鳥の尾羽のような髪の先が、心なしかしょげている。



「でも、何やっても起きてくれないの。この寝ぼすけ。反応はするんだけど」
寝たふりでもしてるのかな?キャンディはもう一度、フレークの頭を軽く突付いた。

「んぅ…ん…」
そうすると、『やめてよ』とでも言わんばかりに、腕で頭を隠してしまった。
「…ほら、ね」
「………」

「なあ、コレ起きてるんじゃないか?」
「…かも。だとしたら、起きないのも当然なんだけど」



腕を組んで考えること数分。

「…あ、そうだ」
ふと、キルシュが何か思いついたようだった。
「何か思いついた?」
「ああ。耳元で何か言ってやればいいんじゃないか?それこそ何でもいいから」
「…ぇー?」
キルシュらしからぬ発言。耳を疑うキャンディ。

「…悪いかよ。昔、アランシアにそうしたら飛び起きたことがあったんだ」
キルシュは恥ずかしそうに、キャンディから顔を背けて頬を掻く。
「…あー!もういいだろ?セサミを待たせてるんだよ」
自分の机からお弁当を取り出し、そそくさと教室を出て行ってしまった。

「…キルシュもキルシュで、お年頃なんじゃない。照れちゃって」
扉の窓から見えたシルエットは、明らかにアランシアだった。



きるしゅッ!キャンディと何やってたの!?
な、何もしてないっ!フレークが朝からずっと起きないって言うから…
話はお弁当食べながら聞くわ!…素直に謝ればそんなヒドいことはしないからね?
ちょ、おま…!既に話聞いてねぇじゃねぇか!?
ふん、だ!
ぁ、こら!引っ張るなって!

「…あは、あははは…」
きっと潰れるんだろうな、キルシュのお昼休み。キャンディは苦笑した。



「………」
「………」
本当に、キルシュが言ったとおりにすれば起きてくれるだろうか?
一瞬考え込んだが、すぐ頭を振る。
(ここで起こさなかったら、予定がなくなっちゃうじゃない)

意を決して、寝ているフレークの耳元に顔を近づける。






「―!?」



おはよう。






…キャンディ。









何か言おうとして、口を塞がれて。

「…ふ、ふれ、ふれ、ふれ、あうー」
「何かの応援でもしてるのかい?」

にやり。その笑みは、いつもの穏やかなものじゃない。

「…そうじゃなくてっ!フレーク、あなた…」
「そうだよ、寝たふりしてたんだ」
傍からドタバタを傍観してるほど、楽しいものは無い。くつくつと彼は笑う。



「…あなた、ホントにフレークなの?」
「正真正銘、フレークだ」



ふわふわとした雰囲気は何処かへと消え、代わりにあるのは、カシスやガナッシュに似た、鋭さ。
フレークにもわずかだがあったもの。しかしそれも、普段その鋭さを裏側に押し隠してのこと。

確かにどちらもフレークだ。だが、同じ人間がここまで変わるものなのだろうか。

「…なんか、いつもと違う」
「それはそうさ。”オレ”は滅多に、人前には出ないから」
「…今のあなたが、ホントのフレークなの?」
「本当の?…違うよ、キャンディ」
彼女の問いに対し、フレークらしき彼は笑う。

「そういう見かたをするなら、”僕”が本当のフレークだ。”オレ”と”僕”は、同一人物にして別人。
オレは、『僕がもしこうだったら?』あるいは、『僕がこうあれば』という思念から生まれた形のひとつ。
無数にいる『フレーク』の1人かもしれないし、たった1人の『フレーク』のひとかけらかもしれない」

「…要するに、フレークはフレークだって。そういうこと?」
「まあ、ね。どんな形にせよ、オレが『フレーク』から生まれた以上、オレもフレークだってこと」
細かいことは、気にしないほうがいい。彼はそう言って、いつもの笑みを見せた。









「それより、一緒に買い物に行く約束、してたよね」
すっと彼は立ち上がると、キャンディの手を取る。
「ぇ…?でも、まだ授業…」
「いいよ、たまには。授業をサボって先生に怒られるのも、いいことじゃないけど悪くもない」
いつもは引っ張られる側の彼が、自らキャンディの手を取ったことに。
普段マジメな彼が授業をサボろうなどと言い出したことに、彼女は驚く。

「…どうしたの?オレがこんなことするのは意外かい?」
不意打ちでキスまでしたって言うのに。
キャンディの戸惑いを見透かしたように、彼はくつくつと笑う。
「…ぁぅ」



「…たまには、オレが引っ張ったって構わないよね?」
「………」

耳元でそう囁いた彼に、彼女は既に抗うことはできなかった。









たとえば、そんな日のお話。

一休茶話『2人のフレーク』

Back