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四四十六茶小説



そして星はまたならぶ 〜サヨナラの終わりに〜


「マドレーヌ…行くんだな」
「…約束…守れなかったね」

男性が地面から、女性は宙に浮かんで、言葉を交わす。

「つらいでしょ?そんな、平気そうな顔してるけど」
「正直、な。おまえも…それは同じだろう?」



誰も、彼らの間に割り込まなかった。そんなことは、できなかった。
もしそうしたら、これから一生、2人を引き裂いてしまいそうだったから。



「…お互いのことが何もかもわかるなんて…ツラいことよね」
「喜び、悲しみ、すべてを相手と共有する。理想的な幸せのようで、それは苦痛をも伴う」
「たのしいことはふたりぶん。かなしいことははんぶん。…そんな風には、いかないものね」
「うれしいことははんぶん。くるしいことはふたりぶん。…そんなことだって、たまにはある」

「…でも、ブレッド」
「…ああ」

「私は…最後の最後だっていうのに、あなたと心を共有できて…嬉しいって、そう感じてる」
「俺もだ。…別れが近付いていること…それを悲しいとは思わない」



次第に離れていく、2人の距離。だが彼らは、互いに手を差し伸べた。
繋ぎあわされたかのように、マドレーヌの体がその場で止まる。

「…まだ、許してもらえるようだな」
「これで最後…なのね」

不意にブレッドは、片手で頭に巻いていたバンダナを外した。
それを、繋いでいた右手の手首に巻きなおす。…手を離した途端、少しだけマドレーヌが浮き上がった。

「…珍しいじゃない。あなたがそんな、おまじないみたいなことするなんて」
「………」



「さよならは言わないぞ」
「言うもんですか。必要ないもの」
「…そう。そんな言葉は要らない」
「言わなくても、伝わる。それ以外の言葉も、心も、みんな」






「…いつまでも」
ブレッドが。

「…いつかきっと」
マドレーヌが。



そんな言葉を交わしたきり、2人は口を閉ざした。








それでも、伸ばしあったその手を、最後まで下ろすことはなかった。









「…ブレッド…」
「…いいんだ、これで」
ポモドーロが声をかけても、彼はマドレーヌが消えていった先をただ見上げるまま。
「…マドレーヌ先生…死んじゃったのか?」
「かも知れないな。…それでも、俺は信じている」

「あいつと繋ぎ合わせたこの手を。…通じ合った心を」
ブレッドは、微笑っていた。









「…先生を助けること、できなかったんですか?」
「コラ、シュガー! ソレハ、イッチャイケナイコトデスヨ!」
ロケットの中で、シュガーはブレッドに問う。カフェラテに咎められた。
「ブレッドは、イパルプアを元の人間に戻すことも不可能じゃなかったって、そう言ったわ。
なら、あの時先生を助ける事だって、できたんじゃないの?」
「………」
ブレッドは答えない。
「ブレッドばかり責めるのはよくないノ。ブレッドは、ボクら以上にがんばってたノ」
「そうよ。ブレッドが宇宙警察のヤツらを叩いてなかったら、
ジフンサーだって、警察をのっとれなかったかもしれないよ?」
「それとこれとは別の話よ。ブレッドにはそれだけの力があったのに、使わなかったの。見殺しにしたようなものよ!」
チャイとジャスミンはブレッドを擁護したが、しかしシュガーは聞く耳を持たない。

「やめろ」
不意に、今まで黙っていたシュイが口を開く。
「…俺達は間に合わなかった。ブレッドでは助けられなかった。…すべては俺達の無力」
平然と、彼は言い放つ。
「太陽を生まれ変わらせたこの力を持ってしても…。人1人の死を覆すには、あまりに小さすぎる力だった」
ただ、それだけだ。シュイはそのまま黙った。

「…シュイの言う通りなんですか?」
「どれだけ巨大な力も、どれだけ固い決意も、失われた何かを元通りに直す事などできはしない」
操縦桿を握ったまま、ブレッドは振り向きもせず答える。
「誰かを救えるだけの力を、ヒトは持っているかもしれない。
決して揺るがない意志も、ヒトは宿しているかもしれない。
…それは、『運命』を捻じ曲げることができる」

『運命』を打ち砕き、切り拓く力。
だがそれは、『宿命』の前に無力。

「…それでも、死の宿命に立ち向かうには、あまりに無力だ」
『……………』

「俺は、自分で思う以上に力を持っているのかもしれない。
…だが俺の力では、護りたい物に手を届かせることもできなかった…」
ブレッドの口調に、自嘲などといった類の感情はこもらない。ただ、述懐する。

「そういう時、俺は思った。『何故俺は、戦うための力など求め続けていたのだろう』と。
…おまえ達は、考えたことがあるか…いや、覚えているか?何故自分が、魔法を使えるのか」



「知っているなら、思い出せたのなら、それを忘れるな。
…大切なことを忘れたままの人間には…間違っても、なってはいけない」

俺は、そうしてようやく…力というものの意味を知ることができた。
コヴォマカが見え、魔法学校が見えてきた頃、ブレッドはそう言った。















それきり、学校でブレッドを見かけることはなくなった。
今どこで、何をしているのか。ソレを知っている者は、学校にはいない。

魔法学校を卒業して、15年としばらく経ったある日、ブレッドを知っているという、青い長髪の男に会った。
彼によれば、ブレッドは今もちゃんと生きているらしい。
彼の家で、迷い込んできた女の子を招きいれ、家族同然に暮らしている、という。









『…ブレッド、さん?』
『?…ああ、俺がブレッドだ。君のような小さい子が、どうしたのかな』
『ちょっと、渡したいものがあって』
『…渡すもの…』

『正確には…返さなきゃいけないもの、だけど』
『…!』



『…いつまでも(待たせてゴメンね?)』
そうでしょ?女の子はブレッドを見上げて、そう言う。



『…いつかきっと(会えると信じていた)』
そうだったな。ブレッドも、微笑みながら返事を返した。









その家の場所は、あえて聞かなかった。
「…いいんだな?」
「ああ。いつか、むこうから戻ってくるさ」
俺が返事をすると、『グレープ』と自分から名乗ったソイツは、どこかへと消えた。



「…本当に、さよならなんて必要なかったんだな…『先生』」
女の子がマドレーヌだとは、グレープは言っていない。それでも、そうなんだと俺は確信した。
…それと言うのも、あの後の俺の人生で、あるハプニングが起こっていたからだ。

「…シュイ?」
「? …リーベか」

買い物袋を提げて、きょとんと俺を見つめる。何の因果か、俺はこいつと夫婦をやっている。
「何をしてたの?嬉しそうな顔、してたよね」
「そうか? …まあ、ちょっとした吉報…だろうな」
「…そう」
少し首を傾げた後、至極あっさりと思考を放棄した。
「早く帰らなきゃ。私もずいぶん、シュガーと話し込んじゃってたし」

「…シュガーが帰ってきてるのか。…それより、ルプアを置いてきてたのか?」
「ぅ。…だって、話が長引くとは思わなかったんだもん」
小走りに家路をたどるリーベを追いかけて、俺も並ぶ。
「持とうか?」
「おねがい」
買い物袋を代わりに持って、2人して慌てた子供のような顔をして、家を目指す。
暗くなり始める今の時間帯は、門限を破って遊びまわって、怒られないように急いで帰る子供のようだと俺達を錯覚させた。

これじゃあ、いつかと同じだな。そう思ってくつくつと笑っていると、隣のリーベも同じように笑っていた。



「ただいま、ルプ―」
「………」
「「ぅ」」
『じーっ』という音でも聞こえてきそうなくらいに、ドアの前に立っているソイツが、俺達を無表情に見上げる。
その視線は、リーベの台詞を強制終了させるほどの威力を伴い、俺達を捉えた。

「お母さんは、また立ち話?」
「はい」
リーベが頭を下げ。

「お父さんは…知らない人に声をかけられてた?」
「はい」
俺も続いて頭を下げる羽目になる。

「…何か言うこと、あるよね?」
「「遅れてゴメンナサイ」」



7年ほど前、俺とリーベとの間に女の子が生まれた。その子の声はよく似ていた。…イパルプアに。
シュガー達にも知らせ、皆で相談した結果、名前も彼女にあやかって『ルプア』とした。
そして現在。何かの冗談かと思うほど、コイツはイパルプアに似た姿へ成長しつつある。

物静かで、目で訴えてくるその性格までもがアイツと似たのかどうかは知らない。それでも、これも何かの縁なのだろう。



「…もう。こんなに長くなるなら、お母さんについていけばよかった」
「ごめんごめん。思いがけず昔の友達に会ったから、つい話し込んじゃって…」
苦笑いしながら、リーベはルプアをなだめている。…ああ、そうだった。
「シュガーが帰ってきたって言ってたな。休暇でも取ってるのか?」
「ううん。情報交換の一環で、ナジョと一緒に魔法学校に来てるんだって」
「そうか」

「それより、シュイの言ってた『吉報』って?」
「ああ…前々から探してたものの在り処を見つけたってだけだ」
「なぁんだ。めったにグッドニュースだとか言い出さないシュイが吉報とか言うから、
てっきり、もっとずっと大きな話だと思ってたわ」
そう、おおごとだ。行方不明のブレッドの居場所がわかったのだから。だけど、今は誰にも話すつもりはない。

あの日ブレッドがふっと姿を消したのは、人知れずやりたいことがあるからだと、そう思ったから。
それを終えれば、いつか自分から俺達の前に姿を現すと。そう思ったから。

「…お父さん、探し物なんてしてたの?」
「まあ、仕事の傍らに…ってくらいだけどな」
「ふぅん…」
ルプアの視線が、また俺を捉えた。

「…見つかって、よかったね」
そう言って、にこりと微笑みかけてくる。
「………」
俺は黙って微笑み返し、ルプアの頭を撫でてやった。






「リーベ。今日は何を作るんだ?」
「んー?それはシュイが決めなきゃ」
「がんばってね、お父さん」



…俺はシュイ・デラ。職業:魔法学校教師。
現在、三十路を目前にして料理の特訓をさせられている28歳。















fin

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