湖に咲く花、それは蒼く儚げに、いつ枯れるとも知らず、されど凛と咲き誇りて、命の輝きを示したもう
「ま、何はともあれまずは一安心、ってとこだな」
「…軽い発作でよかった」
2人して、安堵して微笑む。ワタシとしては不本意だったソレは自然と出てきて、理性では抑えられなかった。
「さて?これでその『白い部屋』とやらには入れられずに済むんだろ?」
「…ええ」
「それじゃ、今日はここでお別れだな」
「ぇ?…どうして」
何か言おうとしていた私に気付いて、はっと言葉を止める。
「どうして…って。おまえ、他にも何か病気患ってんじゃねぇの?いつもは至極あっさりサヨナラなのにさ」
「そ、そんなんじゃ…」
「…それとも、脈ありってコトでいいのか?」
っ!?
「…」
カシスはにやにやと笑ってる。…ぁ。
「…! カシスのバカ!」
「………」
「………」
「…なんでついてくんの」
「この辺りまで来たことないから、家までの道がわからないの」
半分ホントで、半分ウソ。建前に本音を隠す、ヒトの常套手段。
「………」
「………」
「…こっちの道は違うぞ。広場からは離れてる」
「じゃあ、あなたはそんな道をたどってどこに行くの?」
さっきから。…ううん、ずっと前からこれは気になっていた。
カシスは学校をサボることが多い。そんな時、カシスは何処で何をしてるのか、興味があった。
「…表側の人間が来るべきじゃないところ。たとえば、おまえみたいなお嬢様あたり」
「私はレイクサイド家の次期当主とかってわけじゃないのよ?」
むっとして、言い返す。
「はいはい帰った帰った。レイクサイドってのは、結構名が売れた家系だぜ?それだけで狙われる理由になる」
それをカシスは即答であしらう。…これで帰ればいいものを、引き下がらない私は相当な頑固者だろうか。
「だから、さっきも言ったでしょ?道がわからないの」
「来た道戻れば標識出てるだろ。この先の十字路を右!」
「………」
「…ブルーベリー、まさか聞き返してきたりとかしないよな?」
やっぱり病気か?やっと彼は足を止めて、怪訝そうにこっちを振り返る。
カシスはそういうヤツだ。付きまとわれたくないなら私を置いて行けばいいのに、それをあえてしない。
そして、そういう不可解な行動を取る時、彼は何か知っているのだ。…カシスはそういうヤツだ。
ちょっと揺さぶってやることにした。きっと今までだって、何か知ってるうえでわざと止まらなかったんだから。
「…日記に、書いてあったよね」
「日記?」
「…見たでしょ?」
「そりゃ、見たけどさ…アレはブルーベリーがいいって言ったから、あのページだけ見たんじゃないか」
「…ねえ。じゃあ、私があなたにずっとついていってる本当の理由…わかる?」
「は?」
「道がわからないって言うのはウソだって、気付いてるはずよ?どうして走るなりして私を撒かないの?」
この答え次第だ。それで、何かがはっきりする。
「…そりゃ…こんな昼間から暗い場所で取り残されても困るだろうし。振り払えなかっただけさ」
「…ふぅん?」
「ここは迷いやすいし、狭いし、人もいないし。そんなところで1人ってのも怖いもんだろ?」
ほら。やっぱり知ってた。
「…覗いたの、あなただったのね?」
『狭い場所で独りっきりなのが怖い』というようなことを書いたのは、見せたページの1つ前。
あの時、カシスにはそのページを見せなかったはずなのだ。
「はいはい、勘弁勘弁」
まったくかなわないな…とか言いながら、彼は降参みたいに両手を挙げた。
「…じゃあ、今だってちょっと怖いのも、わかってる?」
「なにかご所望で?」
少し渋い顔で、投げやりに聞いてくる。もう少し、からかってやろう。
「手、繋いでくれるかしら?」
「手?」
「手。…それだけで、『独りじゃない』って、感じていられるから」
不安げな表情を作って、俯き加減に、少し不明瞭なぼそぼそとした発音。
「…へいへい、お安い御用で」
急にこんなことを言い出した私を不思議に思ったのか、一瞬怪訝な顔をしながらも、すぐに手を差し出してきた。
「ありがとう、カシスっ」
「ぅわ!?」
手を取ると見せかけて、抱きついてやった。嬉しそうに満面の笑みを浮かべるのも、忘れちゃいけない。
―結局、この日記は皆が覗いていたらしい。結構前から。
あの日の日記を見て、だいぶ私が参ってるんじゃないか、っていう話になって、
それでシードルがあの詩を書いたのだそうだ。どうりで皆、『知らない』とばかり言うはずだ。
それにしても、あの後のカシスは挙動不審気味で、見ていてかなり面白かった。
多分、いきなり抱きついたのが効いたのだろう。私と話すときはしどろもどろしてばかりだった。
その時の彼が面白くて仕方なかったので、これからも隙を見せたらからかってやろうと思う。
今まで散々からかわれた仕返しだ。あいつより人で遊ぶのがうまくなるまで、実験台になってもらおう。
ちなみに、今日から新しい日記帳に換えて、アクエリム語で書くことにした。
先生の中にも、アクエリム語の文章を理解できる人はそういないから、安心して堂々と置いておける。
明日から色々と頑張ることが増えたけど、これはこれでいい、かな。
end
(…日記の最後に、コヴォマカの標準言語で追伸が書かれている)
日記を覗き見してたどこかの皆さん、覚悟しておいてね?
…dead end?