AIで普通の動画を3D動画に変換する
四四十六茶小説



ぶらっくじぇみに 〜炎に沈む夢〜


「…ブレッド」
「来たか。…2人を頼む」
どれくらい時間が過ぎたのか、夜の暗闇から、黒いマントの男性…当時、17くらいか…が姿を現した。
「…彼らだね?君の依頼主が言っていた2人は」
「男がドルチェ、女はロゼ…だ」
「ドルチェとロゼ…か。彼らをどうする?」
「…見つからないよう、ここから連れて行ってくれ」
そのまま、エチュードは暗闇に消えていった。

「…聞いての通りだ。ついて来てもらえないかな?」
エチュードとは違って表情や物腰が硬くなかったけれど、話からして彼の知り合いだった。
「…あらら、思い切り警戒されてる。でも、ここにいたら君達があの建物を破壊したと誤解されるよ」
「…!?」
「まさかとか言いたそうな顔してるけど、さっき来たばかりの俺にはそう見えた。
この光景は、そういう主観を導くのに充分な条件が揃ってるんだよ。
燃え盛る研究施設、たった2人でこんなところにいる被検体。…脱走か何かだと思われるだろうね」
「…」
「でも、たった2人…それも子供が、施設全体を爆破できるような力なり道具なり、持ってるはずがない」

自分で『脱走したように見えた』と言っておきながら、自分からソレを否定する彼の意図が読めなかった。

「とにかく、俺から離れちゃダメだ。いいね?」
気絶したロゼを抱えあげながら、口では同意を求めていたけど、実質こちらに選択権はなかった。



『隊長、その子は?』
「爆破された建物から逃げ出してきたところを保護した」
『保護…ですか』
「信頼できる友人に当てがある。そこでしばらく預かってもらうことにしたい」
『了解しました、報告書にはそのように記載します』

「…さて、これでしばらくは捕まる心配はないよ」
「…何故」
「うん?」
「何故、こんなことを」
「んー、…まあ、放っておけなかった…ってことで」
「………」






連れてこられたのは、山の中腹にある小さな山荘だった。
黒いマントの人は裏手に回り、そこにあったドアをノックした。

「どなた様でしょう?」
「ダージリンだ。ちょっと用事があるんだ」
「ぁ、ダージリンさんでしたか」
かちゃりと音を立て、ドアが開く。そこに立っていたのは柔和そうな女の人。
「…その子は?」
「ちょっとワケありでね。ブレッドからここに連れてくるように言われたんだ」
「そうですか…わかりました。責任を持ってお預かりいたします」
「…頼んだよ」
ダージリンはその後、すぐにどこかへ走り去っていった。

それと前後して、気絶していたロゼが目を覚ます。
「…昨日と違う? ねえ、ここどこ?ワタシ達、モンスターから逃げ切れたの?」
「逃げてきた…?」
「そう。ワタシ達の住んでた町は、モンスターに襲われて全壊したわ。生き残りは、多分ワタシとドルチェだけ」
「……。そういえば、そんな話をダージリンさんから聞いたような気はしますが…アレはもう」

ロゼは何故か、今からちょうど半年前のことを話していた。…すぐに僕は、この半年の間の記憶が飛んだのだと思い当たる。
女の人もまたその可能性に思い当たったのか、まだ少しぼーっとしているロゼに問いかけた。
「…まさか…? 町が襲われたのはいつですか?」
「昨日…3月の17日の夜よ」
唐突な女の人の問いかけに、ロゼは即答した。けどその日付は、どう考えても6ヶ月前…約半年前の日付だった。

「…。2人とも、お疲れでしょう?今はゆっくり休んでください。2階に空き部屋があります」
「ねえ、モンスターは?ワタシ達を追ってこなかった?」
「いいえ…もういません。だから、安心して…お休みになってください」
不意に、彼女はロゼを抱き締める。突然のことに僕もロゼも反応できなかった。
「…ぁ…」
「…大丈夫…大丈夫ですよ。私が、あなた達を護ります…」
ロゼが目を見開いた。不安と恐怖しか窺い知れなかった表情に、別のものが満ちていく。

「…かあ、さ…」
呟いた彼女の声は、体は、震えていた。何かを求めるように揺れる瞳からは、涙さえあった。



「………」
どれだけの間、僕は泣きじゃくるロゼに見入っていたのか。いつの間にか彼女は、女の人の腕の中で眠っていた。
「……。記憶を失うほど、つらい何かを経験したのですね」
「………」
何故か僕は、返す言葉を持たなかった。…何も、出てこなかった。
「…どうかしましたか?」
「…何でも、ない……です」
「…そう、ですか。…そういえば、まだお名前を伺っていませんでしたね」
申し遅れました、と、女の人はロゼを抱えたままお辞儀をした。
「私はワッフル・ウェルボットと申します。あなたは?」
「…ドルチェ。…そっちはロゼ」
「ドルチェ君とロゼちゃん…ですね?わかりました」
「…っ」

向けられた笑顔はとてもきれいで優しくて、少しどきっとした。



「こっちです」
ワッフルの後を追って、2階に上がる。
「…姉上?お客さんか?」
上がりきったところで、見覚えのある服が目に入った。
「ッ!?」
エチュードだ。そう思ったときには、思わず殴りかかっていた。
「ドルチェ君っ!?」
「っ、く!」
突き出した握りこぶしは、思い切り肩に当たった。よろめいた相手を見て、はっと気付く。

エチュードとまったく同じ服の『彼』は、僕らと同じ年頃だった。

「…ってぇ…」
目の前の男の子は痛そうにしている。ソレを見て、怒っているのかと思った。
「…何か俺に恨みでもあるのかぁ…?」
「………」
謝ろうとして口を開く前に、男の子は二の句を継ぐ。
「おいおい?…ったく…名前聞くとか、確認とってからやれってば」
「…怒らないの?」
「たかがパンチの1発2発、ケガのうちには入らねぇさ。気にするなよ」
「…ごめん」
「わかりゃそれでいいさ。ちゃんと謝ってくれたしな」
殴られて笑っていられる彼を、おかしいと思わなかった…といえばきっと嘘になる。

「…あまり悩みの種を増やさないでください」
深くため息をついた後、かすかに苦笑を浮かべたワッフルに釘を刺された。

「で?俺を見た途端殴りかかってきたってことは…兄上が何かやらかしたのか?」
「ダージリンさんが、この2人を連れてきました。何をしたのかは…」
「…今この場では、さすがに野暮か」
男の子は一瞬僕を見て、ロゼに視線を移して、またワッフルに戻した。
「ま、どのみちしばらくはここで暮らすことになるんだ、名前くらいはいいだろ。俺はシリアル。おまえは?」
「…ドルチェ」
「こっちの女の子はロゼというそうです」
「ああ、よろしく。…それじゃまた明日、改めてゆっくりな」
彼が部屋に入っていくのを見送って、ワッフルが悲しそうな顔をしているのに気付いた。
「…ぁ」
見られたと気付くと、ごまかすように笑った。けれどそれもすぐ消えてしまう。
「…つい最近、シリアルの幼馴染が亡くなりました」
「………」
「シリアルは…まだ無理をしているはずです。だから、心配で…」

「…野暮」

「っ。…そう、ですね。他人のことを気にしすぎるのは、私の悪い癖です」
「……」

本当に支えが必要なとき、人はそれとなく求めてくるものだ。…僕はそう思っている。
だから、心配をしすぎているワッフルに少し釘を刺した。



「おやすみなさいませ。何かあったら、呼んでくださいね」
「…ありがとう」
お礼を言うと、少しはにかんだように笑いながら、ワッフルは部屋の扉を閉めた。

「…ねえ」
「ッ!?」
気がついたら、ワッフルがベッドに寝かせていたロゼが、目を開けて僕を見ていた。
「ワタシ、何か大切なことを忘れてる気がする」
「………」
「忘れたくないこと、忘れちゃいけないはずのこと、忘れてる気がする。
…ねえ、ドルチェ。私が何を忘れてるか…アナタには、わかる?」
「………」
おじいさんのことは忘れたくない。だけど、殺されたことは、今は思い出させたくなかった。
「…そう」
だから僕は、首を横に振った。

「おやすみ、ドルチェ」
「…おやすみ」

ロゼがまた眠ったのを見て、僕は外に出た。あのまま眠れる気がしなかった。









「…ここにいたか」
「………」
いつの間にか、ブレッドが僕の横に立っていた。
「思い出していたのか?初めてここに来た日のことを」
「…はい」
「そうか」
それきり彼は黙る。何も言わず、隣に並んで満月と星を見上げる。



「…あの」
「どうかしたか」
「…背負って、行こうと思います。ロゼの分まで」
「…そうか」

やっぱりブレッドは、僕に微笑みかけていた。



冷たい夜風は、優しく頬を撫でる。

木や草のざわめきは、砂浜の漣の音に似て。

夜の暗闇は、ただひたすらにおだやかで。



「生きるよ、おじいさん。僕らは僕らとして。…人として」









...fin?

Back