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リレー小説



漆黒の詩 -シッコクノウタ- 8


「…いないね。どこまで行ったんだろ?」
辺りを見回しながら、フレークは呟く。

「この辺り一帯、全部開け放たれてるね」
場違いなことを言うティンブラ。

「開いてる扉を追っていけば、先生に追いつけるってコトだよ」
何気ない発言に誘導されたノエル。



「……………」
言葉はない。ただ、ひたすらに足音と吐息。7人分。

足がこつりと床を叩けば、その音が廊下に吸い込まれる。
誰かがふうと息を吐けば、その音は誰かの耳に届く。



「…ぁ」
先頭のフレークが足を止めた。一瞬遅れて、後ろのみんなも止まる。

「…開いてる扉、ココで終わってる」

最上階の、階段からさほど離れていない扉。そこを境に、扉は閉じていた。

「…いるかな?」
不安げで、どこか緊張しているのを隠せないキャンディの声。
「多分、な」
扉の先を、鋭い眼差しで見据えるガナッシュ。

「入るなら、気をつけて。…何か…いるよ」
警告じみた、潜めた声。ティンブラのものだ。
「でも、この先に…いるんでしょ?あの幽霊の本体」
なら、行かなきゃダメだよ。一番初めに、ローレルが足を踏み出した。



「いらっしゃい」

そこは、酷い荒れようだった。

「――ここには、うっかり迷い込んだのかしら?」

爆心と思われる机は無残に砕け散り、壁や柱は高熱に焼け、融け。

「それとも、噂を聞いて、好奇心で引き寄せられた?」

背後の扉が、小さく音を立て、閉じた。



「…あるいは」

唯一、原形をとどめている机に、少女とも大人ともとれぬ女性が腰掛ける。
赤い眼、金の撥ねた髪。左肩辺りがばっさり切れて肌と傷が覗く、白い長袖とスカート。

「今度こそ、『ワタシ』を完全に抹殺しようとしてる学校の手先――」



その足元には、ヒトだったかもしれないナニかが倒れ伏していて。

その左腕は、無残に肩が抉りとられていて。



机に腰掛け、微笑む女性の左肩から、際限なく溢れ、流れ出すアカイモノ。



「…っ。ブレッドは!?」
「ブレッド?―誰かしらね」
辺りを見回しても誰もいない。あまつさえ、彼女以外の誰かがそこにいた痕跡すらない。
「一帯の教室を開け放っていった教師なら、10分ほど前にココを開けて素通りして行ったわ」
ソレがどうかしたの?艶然と、女性は尋ねる。

「…ブレッドが気付かないはずがないよ」
「何故?」
ティンブラが、呟いた。聞こえたらしく女性は尋ね返す。
「彼は、君のような霊体を、物体と同じように視認できるんだから」
「…ふぅん。じゃあ、『だからこそ』気付かなかったんじゃない?」
だってこの机、扉からは死角だもの。

「―でも、ボウヤ達にもワタシは見えてるみたいね?ボウヤが言ったとおりなら、通常、霊体は視認できない…ってことじゃない?」
ワタシは別段、何もしないでココにいたんだけど?クスクスと、面白がっている様子の女性。

「…」
間。

「ハハハ。ソレとコレとはまったく別な問題さ」
「何故目をそらすの?額に冷や汗まで浮かべて」
即座にツッコまれた。

「要はわかりません。本当にありがとうございました」



「…で?ココを閉じたってコトは、俺達をここに閉じ込める気かい?」
「誰がどう見ても、『はいそうです』って答えるでしょうね、ボウヤ」

つまりそれが、ガナッシュへの答えなのだろう。外に出す気はない…暗に言っている。

「…何をしたいの?」
「さぁ?何がしたいのかし――がふ、ッ…!!?」

くすくすくす。女性は『どうしようかな?』とワラう。

突然、女性がけいれんしたようにのけぞり、全身から血を噴き出した。斬られたような傷とともに。



「い、今の…!?」
かなりショッキングなモノを見せられ、キャンディは顔を蒼白くして膝からへにゃりと座り込む。
「…大丈夫か、キャンディ」
「うん…なんとか」
隣のガナッシュも一緒に片膝で座り、彼女の背中に手を添えた。

「またなの?さっきは全身殴られて、火あぶりにされたと思えば…」
そうして次の瞬間には、左肩以外の傷は一切消え、元の笑みを浮かべる。

「あの…?今のは、一体?」
おそるおそる、フレークが問いかけると。

「…アンデッド。アレは生前のワタシが死の直前に作り出して外に放った傀儡(くぐつ)。
やっぱりあの短い時間で、ちゃんとしたものを作るのは無理だったみたいね」
神経は繋がってるのに、こっちからはコントロールできないし。存外、気に留める様子はない。

「…ごめんなさい」
「どうして?」
何故かシュガーは謝った。






「…ナニ、これ…」
「効かないわ、コイツ。魔法が…」
学校までもう少しだというのに、なんなのだろう。このアンデッドモンスターは。
「魔力―感じない。生気―感じない」
ぶつぶつと、ブルーベリーは呟く。アンデッドはアンデッドか。彼女は分析をやめた。
「…叫んでるよ。…哀しいよ」
何が哀しいかは知らないが、オリーブはアンデッドの心とシンクロしかけているのか、涙目でブルーベリーに訴える。
「このヒトを撃たないで。…撃ったらいけない気がするの」
「撃つな、って言ったって…!」
『ガァァッ!!』
「っく」

さっきからコイツは、長く鋭いツメを使って斬りかかってくるのだ。

「…学校まで、逃げ切れないわよ…!」
奔り続けてはいる。しかし止まってしまうのも時間の問題。改善の兆候が見られたといえ、所詮病み上がりだった。



「もう、ダメ…ッ」
「ブルーベリー、頑張って!もうちょっとだから!」
前を向けば、徐々に近づいてくる昇降口。後ろを振り返れば、追ってくるアンデッド。
だが、どう考えてもアンデッドのほうが先に追いついてくることは想像に難くない。

「何かないの…!?何か…助かる方法…!!」



「あるぜ?ここに」



唐突な声。

「ちょ、なんでアンタがこんなとこに…!」
「知るかッ。それよか、学校まで逃げ切りたいんだろ?」
少女達と青年は、面識があるようだった。
「ほら、行った行った!ここはオレらに任せとけって」



「ありがと、カシス…っ!」
ブルーベリーの手を引き、オリーブは駆けて行った。



「ぁー。ボクまだ名乗ってないのにー」
「そう言うなって。今はソレより、むこうさんだ」

対峙したのは、2人の少年とアンデッド。

「一発で決めるぞ。いいな?」
「わかってるよー。もー」
キミってやつは、いっつもボクを引きずり回すんだから。ぶつくさ言いつつも、詠唱。

「っふ」
銀髪の少年がアンデッドの腹を蹴り飛ばす。よろめいたアンデッドに、更に蹴りを入れる。

『ガゥ…!!』
「遅い遅い。止まって見えたぜ?」
薙いだ腕を避け、首を蹴り飛ばす。アンデッドは予想外の衝撃に、倒れ伏した。

「今だ、やるぞッ!」
「…はいはい」

彼らが始めたのは、レッドローズとエクルヴィスの詠唱。
普通なら、すぐさま形を成す2つの魔法。



詠唱は、そこで終わることは、しかしなかった。
彼らが紡ぐ言霊は、同一のもの。



「気高く咲きたる薔薇の花。美しきこと、女神の如し」
金髪の少年の詠唱。

「やがては枯れん夢幻の命。さながら醜き、老い逝く老婆」
銀髪の青年の詠唱。

「「ならば散りませ、歳老う前に。若き姿を留めませ。
千散れ血散れよ、我が刃にて。死して美し、花の散り様」」



アンデッドが起き上がる。銀髪の青年は既に、完全に起ききっていないアンデッドの懐。



モノを刻む音、薔薇を描く血飛沫、連続した落下音。



「「―マスカレイド・ローズ・ブレイズ(薔薇ヲ斬リ刻ム剣ノ乱舞)」」



アンデッドはその瞬間、首から下を解体され―やがて消えうせた。



「…案外上手くいったね」
「だろ?」
「…で、どうするの?彼女ら」
「これ以上オレらが出てっても、あまりいいことはないだろうさ」
「頼りにならない救助隊だなぁ。そんなんじゃ誰も助からないよ」
「おまえもなー」
銀髪は、わしわしと金髪の頭を撫で付ける。
「ちょ、やめてーっ。明日ぐちゃぐちゃになるってばー」



結局2人はあまり深く首を突っ込む様子もなく、寮あるいは家へと引き返していった。



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