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リレー小説



漆黒の詩 -シッコクノウタ- 6



「…ッ!?」
ばさり、と音を立てて毛布が床に落ちる。



―   タスケテ   アツイ   イタイ   クルシイヨ   ナニモミエナイヨ   タスケテ   ココカラダシテ   ―



「―!!」
まただ。



隣で何事もなさそうに眠る姉の姿を捉え、次に、せいぜい1時間ほどしか進んでいない時計が目にとまる。

「何だって言うんだ、さっきから…」
最初はおぼろげだった声も、時間を経るにつれ明確なモノになっていく。
おまけにソレは、学校のほうから聞こえてきた。

「…急を要する、かな…」
しかし、隣の姉に黙って出て行くと、要らぬ心配やトラブルを招きそうだった。

「……。姉さん」
一言伝えておこうと、寝ている彼女を揺り起こそうとする。

「姉さん」
「…ふみゅ…ガナッシュ、そこはダメぇ…」
「…!?」
「ぁ、ダメ、ソレはダメなの…。 …ダメ、だって…ばぁ…」

一体どんな夢見てんだよアンタ。
自分の名前が挙がったこと、前後の台詞がなかなかアレな雰囲気であることに驚きつつ、しかしツッコむ。



「はぅぅ…ガナッシュがぁ…ガナッシュがわたしのにっきかってにみたぁ…」
「……………」

紛らわしい、紛らわしいよ姉さん。…というかヒトの日記を覗くほど野暮じゃないつもりだ。―自分では。



「………」



だが、あまり必死に隠されると、どうしても見たくなってしまうのがヒトのサガ。
(…今度こっそり覗いてみようか?)



デジャヴ。






……。






「違う。俺が気にしてたのは姉さんの日記じゃなくて、さっきから聞こえる声だ…」
本来の目的を思い出し、外に出ることを伝えようと、もう一度彼は眠る姉の体を揺する。

「…んぅー…?」
彼女はようやく目を覚まして、とろんとした眼差しをガナッシュに向ける。



「私と一緒に寝たいの…?」
「残念だけど違う」
ガナ様、華麗にスルー。
「…いけずぅ…」

冗談でもいいから『はい』って答えてほしかったのに。彼女は眠そうに独り言。
「…それで…ホントの用件は?」

「嫌な予感がする。学校に行ってくるから伝えておこうと思って」
「…明日の夜、一緒に寝てくれるならいいよ?」
……。
「またソレか。…お互い、もうそんな歳じゃないだろ?」
呆れた風にそう言えば。

「こんな歳だから…あえて一緒に寝たいんだけどな…」
眠たげな目で、ガナッシュを見つめながらそうのたまった。



「……」



ガナッシュは何も言わず、姉の頬を人差し指でぐりぐりしてやる。
「ぁぅー、ほっぺぐりぐりするのやめてー…」
「姉さんがくだらない冗談言うからでしょ」
「…はぁーい…」

『朝には帰ってきてねー…』と言い残し、彼女は再び眠り始めた。
さっきまでのは全部寝言だったんじゃないかとも思えるほど早い眠りだったとかそうでないとか。






ところ変わって、学校内部では今も探索続行中。

「…扉、片っ端から開いてるね」
ぽつりと呟いたのは、先頭を歩くフレーク。
「コレがお化けの仕業なのかな…」
「かもね」
不安げに呟くローレルを、キャンディが煽るような発言。
「ちょ、不気味な事いわないでよ…?」



ガラガラ、ガタン。



「っ」
フレークが音を聞きつけ、立ち止まる。

「…扉を開けた音…だね」
ノエルにはそう聞こえたのか、彼女は呟く。



ガラガラ…



「…まただ」



―っち、この階は違うようだな―

コツ、コツ、コツ…



「…今の声って…」
「間違いない、あのヒトだ」
ようやく先ほどの男性に追いついたことを、シュガーとローレルが確信する。

「…今の声…ブレッド先生だよね?」
『ぇ?』
男性を知っている様子のキャンディに、4人は揃って首を傾げる。
「知らなかったの?彼、ここの先生なの。…出張ばかりで、学校にいることはほとんどないけど」

校長先生からもかなり信頼されてるんだって。強くてカッコよくて、素敵よね。キャンディはそう言った。

「…それで?彼に何の用?」
少しでも男性…ブレッドに早く追いつこうと、一同は早足で歩き始める。
「あのヒト、お化け騒動について何か気付いたみたいなんだ」
「それで、話を聞こうと追いかけてきたの」
「…ふぅん」
フレークとシュガーに説明され、気のなさそうな返事のキャンディ。しかし瞳は言葉と裏腹に、なお輝く。
「じゃ、せっかくそこにいるんだし、聞いておかなきゃね」



「せっかくここにいるんだが、いつになったら気付いてくれるんだ?」
「あ、そこにいたんだ。一番後ろにいたなら、最初からそう言ってくれれ…ば…?」



「「「「「   ! ! ?   」」」」」

少し先を歩いていたはずのブレッドが、いつの間にか最後尾をついてきていた。



「ぶ、ぶ、ぶれ、ぶ、ぶれど、っど…あうあーっ」
「落ち着け。俺は『ぶ』でも『ぶれ』でも『ぶれど』でもない」
パニックするノエルの肩にぽんと手を置く。

「いつの間に、後ろにいたの?さっきまで前を歩いてたはずよ」
シュガーが怪訝そうな顔で問いかけてみれば。

「誰かがついてくると思って振り返れば、おまえ達が気付かずに素通りしていったんだろうが」
いつまで経っても気付かないのには呆れたぞ。ブレッドはにやりと笑う。






「…幽霊の噂、か。ソレを知りたくて、俺を追ってきたのか」
「はい。…アレのことが、どうしても気になって」
フレークが事の顛末をブレッドに話し、数秒。

「昔、この学校の何処かの実験室で、事故が起きた」



少々危険な薬の調合。その最中に事故が起きた。教師が材料の配分を間違えて教えたのが原因とされている。
実験室は、発覚を恐れた担当教師の手で封印され、実験に参加した生徒達には厳重な口封じが行われた。
事件はそのまま誰にも知られることなく終わっていった。
…事件の被害者のこともまた、誰かに知られることもなく。

30年もの間、ずっと。

教師は結局逮捕。数年経ってから事件の一部始終を自白し、それに前後して、病で獄死。
放置され脆くなった封印から、残留思念が逃げ出してあのヒト型アンデッドになったのだろう。
あの亡霊には済まない事をしたものだ…。ブレッドは小さく呟いて話を終わった。



「…助けて。ここから出して。…そういうこと、だったんだね」
フレークがぽつりと口に出したソレは、あのアンデッドが叫んでいたこと。

「…ねぇ。聞いちゃった以上、何とかしてあげたいよね?」
誰よりも先に、キャンディが問いかけた。
「そう、ね。…ただ、こっちが事情を理解してても、きっとあのアンデッドはお構いなしに襲ってくるわ」
不死身の相手だなんて。シュガーは珍しく、仲間の意見に反論する。
「でも、かわいそうだよ。ずっと、あんな姿でいるの」
「助けてあげようよ、シュガー」
「…ぅ」
ローレル、ノエルから咎めるような視線を受け、困り顔のシュガー。

「…残念だが、連れて行くことは出来ない。だがこのまま帰すのも危険だ。マドレーヌと待っていろ」
「あ、ちょっと待…」
ぴしゃりと言い放ち、ブレッドは踵を返す。呼び止める間もなく階段を下りていった。



「こらーっ!先生がぼーっとしてるうちに勝手にどこかにいっちゃだめでしょーっ!」
入れ違いに、ティンブラを従えて走ってくるマドレーヌが現れた。



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