漆黒の詩 -シッコクノウタ- 5
「あら、ノエル達じゃない。何してるの?」
それはこっちの台詞。
ノエルは、喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。
『……やっぱり、あのヒトを追いかけた方がいいのかな?』
フレークの提案から、全員が賛成するまで、それ程時間は掛からなかった。
気絶中のティンブラと思案中のマドレーヌ先生を置いて、職員室を出て。
廊下を走っていると、ばったり出会ったのは、クラスメイトのキャンディだった。
「騒がしいわね。何かあったの?」
彼女はいつもの服から着替えて、今はパジャマを着ていた。
水色に、白の水玉の上下。
両方とも、丈は少し長めになっているようだった。
「こんばんは、キャンディ。男の人と、すれ違ったりしなかった?」
「男の人? 別に、すれ違ってないけど」
「そう。ありがとね」
「……?」
ノエルが質問をし、シュガーがお礼を言う。
2人はお互いを見て頷くと、走り出そうとし……。
それから、キャンディに腕を掴まれて行動を停止した。
「ねぇ、私にも教えて! きっと、力になると思うわ!!」
「キャンディ、でも……」
「ローレルは黙ってる!! ねぇ、いいでしょ? ノエル、シュガー?」
「……どうしよう、シュガー……」
さっきまで、眠そうな目を擦っていたのに。
キャンディの瞳は、今では、キラキラと輝いていた。
水を得た魚、とは、まさにこのことだろうか。
「じゃあさ、なんでキャンディがここにいたか教えてくれたら、連れて行ってあげるよ」
「え……?」
「どうしてここにいたの? キャンディ?」
と。
助け船を出すように発言をしたのは、フレークだった。
彼はにこにこと笑みを浮かべつつキャンディを見やると、そっと小首を傾げた。
「そ、それはー……。乙女のプライバシーってやつよ」
「じゃあ、連れて行かない」
「きゃぁぁ!! ちょっと待ってぇ! フレークぅー!!」
「……うん?」
キャンディが叫びながらフレークの腕を掴むもんだから、
シュガーたちは、慌てて彼女に向かって口の前で人差し指を立てた。
「しー、キャンディ。寮まで聞こえちゃうわ」
「みんなが起きて、大騒ぎになっちゃうよ!」
「そうしたら、キャンディも僕たちも、大変だよ!」
キャンディは、「あ、ごめんなさい」と言うと、
フレークの腕を放し、両手でぱっと口を押さえた。
「その……噂を、確かめようと思ったのよ。先生には内緒よ?」
「噂……?」
「そう、幽霊騒ぎ。みんな、知らないのね。学校に、お化けが出るって話よ」
キャンディは自慢するように、そう言った。……先ほどよりも、声を小さくして。
4人は内心ぎくりとしつつ、首を傾げた。
「ね、ちゃんと話したわ。何があったか教えて? 私、ついて行ってもいいわよね?」
そんな、首を傾げる様子を見ずに。
キャディはフレークの両手を自分の手で包み込むと、お願い、と、上目遣いで彼を見た。
肩を竦め、どうしようかと残りを見るフレーク。
「……しょうがないわ、フレーク。約束だから……」
「やった!! 一緒に行って良いのね!!」
「キャンディ、しーっ!!」
「はっ! ごめんなさい……」
シュガーは小さく首を振ると、これまた小さく溜め息を吐いた。
大声を出して喜ぶキャンディに、ノエルとローレルが揃って口元で人差し指を立てた。
「……あら?」
マドレーヌ先生がふと周りを見やると、
先ほどまで居た大切な生徒達が、見あたらない。
床には、丁度復活したらしい金髪の少年が、一人。
「あの子たち……どこへ行ったのかしら?」
まだ、くらくらするのだろう。
足元の少年は、頭を押さえて、「いたた……」と、唸っている。
「まさか……自分たちから危ないことに巻き込まれに行ったりは……」
しないわよ、ね。
マドレーヌ先生の言葉は、途中で途切れた。
彼女は顎に手を当て悩むような動作をし……。
それから、足元の少年を肩に担ぎ上げると、職員室を出て走り出した。
「ま、マドレーヌ!?」
「じっとしてないと落とすわよ!!」
「ちょ、気絶した上にこの仕打ちってーーッ!!!」
「うるさいっ!!」
ぐんぐんと、速度を上げて。
――無事でいてね、私の生徒達……。
彼女は心の中でそう祈ると、また速度を上げた。
next