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リレー小説



漆黒の詩 -シッコクノウタ- 24





「―――…」

全員が揃ったのを確認すると、何も言わないままブレッドはワープの準備を始めた。









「…いつ来ても、殺風景な場所だ」
いつになく醒めた表情で、フレークは呟く。
「ホントだわ。でも、いつか来たときより…からっぽで、何だか寂しい」

「話は後だ。…モギナスの最深部に行く。モンスターはまだいるぞ」
さっさとブレッドは歩いていく。
「…マドレーヌ。後ろを頼む」
「わかった」



道すがらのモンスターは、ブレッドとマドレーヌが片端からことごとく虚無に還していく。

「…うっわ、出番無いよ僕」
「影薄いね、ティンブラ」
「フレーク、言えない。ヒトのこと言えないよ」
いい笑顔でフレークがそんな事をのたまい、シュガーが突っ込みを入れる。

「ねぇ、一番奥で何するのかな?」
「きっと、サブレを助けるために何かしてくれるですよー」
「…」
傍から聞いていて、内心サブレは苦い顔をする。

…ブレッドの真意は、結局のところ誰に対しても明らかにされていない。
彼は立場上はサブレを成仏させる側にいるが、本心ではどうなのか。いや、助けたいと思っている。

『…ふ。せっかく、この世界に生まれ変わったというのに。…せっかちな女性だ、君は』
困ったような笑みを見せた、あの夜。彼の表情をふと思い出す。
『本当にその道を選びたいなら、俺は止めない。が…生きること、死ぬことは対義ではない。
…おまえは確かに生きているんだ。それを、いやと言うほど思い知らせてやるさ』

自分の行く末すら自分では決められない事実に、彼女は自嘲するように微笑った。









『そなたらに新しい肉体を与えよう』

そんなふうに、話しながら、考え事をしながら歩くうち、すぐに最深部にたどり着く。

「………」
かつて、激闘の末にケルレンドゥが散っていった場所。ブレッドらはそこに降り立つ。



「…ここに立てば、今の体を捨て、新しい命へと転生する」
「…そう」
ただそれだけを、ブレッドはサブレに伝える。

「…ちょっと。あの人形は?このために、あの人形を作ったんじゃないの?」
「…。やれやれ、他人の詮索は程々にしておいて貰いたいんだが」
ブルーベリーの問いかけに対し、マトモに返答する気はなさそうだ。

「…いいんだよ、これで。すべてはサブレの意志ひとつなんだから。
…彼女がひとことNOと言ってしまえば、それは無駄になるんだ」
不意にティンブラが口を開いた。
「な…!自殺ほう助もいいところじゃない!指をくわえて見てろって言うの!?」
「敵味方の関係なら、『なら僕を倒して止めてみなよ』とか言うべきところだろうけど。
あいにく、敵同士ってワケでもないし、仮にそうだとして、ブレッドに君たちは勝てるのかい?」
キャンディがかみついても、彼は飄々と抗議をかわす。



「…ねえ」
次に口を開いたのはマドレーヌだった。
「…ホントに、これでいいの?」
「彼女に聞け」

「…そう、ね。何としても今じゃなければ、私は鎖に絡め取られてしまうから。
縛られて身動きが取れないまま消えていくよりは、この方がずっといいわ」

「そんなことは聞いてないわ。あなたは、ここにいたいか、いたくないのか。それを聞いたの」

「………」
答えるまでに、かなりの間があった。
「…まだ、ここにいたい。…彼には、ちゃんとお礼を言わなかったし」
サブレはちらりと、『彼』に目をやった。…キャンディに問い詰められつつも、答えることなくすらすらかわしている。
「…彼は、私に手を差し伸べてくれたから。…抱きしめてくれたから」
「…お礼も言わずに、サヨナラしちゃうの?それは失礼じゃないかしら」



「…オレも、先生と同意見だな」
いつの間にか、騒ぎを抜け出してきたナイトホーク姉弟とオリーブ。
ヴァリオール兄妹も、じきに追いついてきた。

「…ホントに、行っちゃうの?」
「ええ。…どのみち、このままじゃ体が持たなかったしね」
「…ぇ…?」
そのことを知らなかったシュガーは目を丸くする。
「…このままだと、だんだんぼやけて結局は消えちゃうんだって、私。
夜明けごろには、段々と意識がぼんやりしてきて、最後には記憶も自我も失くして消えていくんだって」
どこか他人事のように言うサブレ。ショックだったのか、シュガーはがくりと膝をついた。
「…ウソ。…ううん…ホントなんだよ、ね。…ひどいなぁ。私達が必死で助ける方法を探したのに、
そんな致命的なことを教えてくれないなんて。嘲笑うみたいなことして。…あは、あはははは…」
「………」
半ば自失状態で力なく笑うシュガーの方をぽんと優しく叩くフレーク。
「…」
「何か言いたいことでもあるの、フレーク」

「オレは、君を無理に引きとめるつもりはなかった。
…でも、そこまでしてさっさと消えたい理由は何?」
「どうしてかしら。私はここにいてはいけないはずの存在だもの」
「…バカやろう」
「意外ね。あなたの口からそんな言葉を聴くなんて」
「そんな理由で、僕達は君を拒んだりはしなかったのに」
悔しそうにはき捨てると、フレークはそれきり黙った。



「…ねえ、サブレ」
「ヴァニラ…?」
「生きているって…どういうことだと、思う?」
唐突で、難解な問いかけ。

「生まれること?死んでいないこと?…違うと思うわ」
「…。わからない。私が生きているのかどうか」
「…そう。ならいいわ」

「質問しておいてソレなの?…別にいいけど。…あなたの目には、
私が生きてるように見える?」
「ええ」
あっさりと追求をやめたヴァニラに問い返すと、さらに即答が帰った。

「…オレも、君が生きてるように見えるよ」
「私も。…だって、あなたは」



「話はそこまでだ」
無常にも、途中でブレッドからかかったストップ。









「…これで、本当に最後だ。…行くんだな?」



「…。迷っちゃったじゃない」
「それは失敬。…どうする?」
「行くわ」
「…わかった」

「ブレッド…!」
「俺ではなく、サブレに言うんだな。…それとも、あえて俺に言っているのかな?」
「…」

「…そうだ、これを渡しておく」
取り出したのは、オリハルコンのペンダント。
「…どうせ、ここから外へは持っていけないのに。…何か、たくらんでるの?」
「さあな。だが、俺としては消滅する直前まで身につけていてもらいたいが」
「…」
怪訝そうな顔をしながらも、サブレはペンダントを首につける。



「…じゃあ、ね…みんな」



やがて彼女は、白い光になって消えていくだろう。
彼女が消えると同時に、ペンダントがからんと音を立てて床に落ちた。

…そんな光景が、今から見えてしまってならない。



「何か、彼女に伝えることがあれば…今のうちに言っておくといい。今度こそ、最後だぞ」
ブレッドは表情ひとつ変えず、みんなに告げた。



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