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リレー小説



漆黒の詩 -シッコクノウタ- 22





「…だってさ、ブレッド。聞いてるんでしょ?」
苛立たしげにキャンディが話を降ると、ブレッドは立ち上がる。

「知らないな、そんなもの」
「っ…!?」
そして彼は、ティンブラの発言を真っ向から完全否定して切り捨てた。

「禁忌の秘術など、失敗のリスクが大きすぎる。ゆえに知ろうとも思わない。
俺ならそんなものには飛びつかず、別の手段を模索する」
彼女の為に、自身が犠牲になる危険を伴う選択肢など、本末転倒もいいところ。彼は哂う。

「あるいは…何もかも隠したまま別れることに不満でもあるか?」
普段のブレッドらしからぬ、人をバカにするような微笑。

ふと、フレークの眼差しが鋭さを帯びる。
「そうだよ。このまま何も知らずにサヨナラ…なんていうのはごめんでね、オレは」
彼の発言に、皆が頷いた。
「どうあっても、吐いてもらう。君とサブレが隠してること、すべて」
「…ふん」
ブレッドは、しかしなおもマトモに取り合おうとしない。

「偽善独善の十や二十、大いに結構だ。だが…こればかりは、彼女に誓ったことでな」
「…どうあっても、逝かせる気だって…そういうことかしら?」
さらに追求を図るキャンディ。…心なし、エキウロクリュが憑いていた時みたいな、ドスの効いた声に聞こえる。



「どうだかな。…ひとつ言えること。どのみち俺がいなければサブレは助からない」
くつくつと笑いながらわけのわからないことを言い出す。
「え…?」
「意味は自分で考えるんだな。…さあ、急げ。日は沈んだ。精々、あと6時間だ」
そのままブレッドはワープしてしまった。



「ッ!?」
「まさか、サブレを連れてく気…!?」



ちょ、ブレッド!不法侵入もいいところよ!
いつまでも閉じこもってるからだろう。
あなたみたいな浮気者なんて知りません!出てって!

『………。』

何度も言っている。あれは誤解だ。
ふぅん?何がどう誤解なのか、説明してくれるのかしら?
ああ。
なら、説明してよ。いったいどういう―っ!?
これで納得してもらえたか?
…卑怯者。
卑怯者はそっちだ。そう聞く耳を持たないでいたら、行動で示すしかないだろう。
〜ッ!



「…いったい何をやってるんだ?」
「さあ…?」
扉の向こうを不思議そうに見つめるガナッシュとオリーブ。



「それにしても…いったい何を考えてるのかしら」
顔をしかめるシュガー。
「やっぱり、ブレッドは知ってるんだわ。サブレを助ける何かを」
「でも、いったいどうやって…?話を聞く限り、ブレッドにしかできないことみたいだけど」
「そんな特殊な魔法を彼が使えるなんて話、聞いたこともないわ。…まだ何か隠してるの、彼は…?」
ブルーベリー、キャンディも話に参加するが、一向にブレッドの真意が見えてこない。

「…ちょっと、聞いて」
不意のオリーブの声。

「…今、ブレッドと先生の『声』がした」
話、続いてるよ。小声で、聞こえた声を繰り返す。



『うまくいくの?』
『わからない…こればかりは実際に検証もできないからな。確率は、よく見積もって20%が精々』
『…そのために、こんな人形を?…今更だけど、何もかも計算づくね、あなたは』
『…。創り上げるのには苦労した。基本の原理は同じだが、形は極限まで人に似せ、素材も規格にはない特別製だからな』
『普通のコピーじゃなくて、完全に移し替える…のよね。劣化する可能性はあるの?』
『通常、なければおかしい。だからこそ彼女を、モギナスに連れて行く必要がある』
『…モギナスへ…?』
『説明してもわからないさ。…それよりも…わかっているな?』
『…ええ。…何も、言わないわ』

『…口では何とでも言える。何でもできると謳いながら…その実、できることなどほんの限られた一部。
できないことの方が、むしろ圧倒的に多い。所詮この世界はそんなものだ。
遅かれ早かれ、ソレを知らせなければならない。…あいつらは、それを本当の意味で理解していない』

『大事なのは、そのもう一つ先じゃないのかしら?』
『師匠の技は教わるものじゃない、盗むものだ』
『…残酷すぎない?』
『さてな。…長話が過ぎた。これはお前に預けておくが、構わないか?』
『ええ、構わないわ。言い訳は何とでもできるから』
『…わかった』



「…だって」
「人形…コピー…モギナス…?わからないことばかりだわ」
あまりに情報が断片的過ぎて、ブルーベリーでも頭を抱える。

「…行ってみればいい」
立ち上がったのはフレーク。
「話を聞く限り、別に隠そうとはしてないと思う。むしろ堂々と置いておくはずだ」
「百聞は一見にしかず、そういうわけか。いいと思う」
ガナッシュからも賛成を受け、一同起立。

「ティンブラは…呼んだ方がいいと思う?」
「ダメだ。呼んだら、きっと何か妨害してくる。しばらくは僕達だけでやろう」
オリーブに即答を返すフレーク。そのまま視線を移すと、2人の少年少女を伴って部屋へ足を向けるサブレ。
「ローレル達も…あのままにしておいてあげよう」

そこへブレッドとマドレーヌが出てきたが、そのまま何事か話しながら外へ。
「…よし。ブルーベリー、一緒に来て」
部屋に入るのはフレークとブルーベリー。見つからないように、部屋へ入る。



「…!これって…」
「サブレ…!?」
2階に行ったはずの彼女が、マドレーヌのベッドに横たわる。
「…?…違う、サブレじゃない…?」
最初は慌てたが、2人ともすぐ違和感に気付き、落ち着きを取り戻す。

果たして、『人形』はそこにあった。

「…こんなに精巧な人形、初めて見るわ」
「本物が寝てるみたい、だね」
人形は無表情に目を閉じている。肌も髪も、見た目・手触りともに本物の人間とほとんど変わらない。
「話によれば、これはブレッドが造ったんだったね」
「…でも、何でこんなものを…?」
観察を始めるブルーベリー。

「…?何でかしら、これ…。…マジックドール…?」
「まさか。これは人型だよ?あんな変な形はしてないし…」
「多分、特別製っていうのはこのことよ。人に似せるために、規格外の特別な素材を使うしかなかったんだわ」
さらに詳しく人形を調べ始める。

「…特殊な魔術がかけられてる…。発声機能があるし、神経も全身に張り巡らされてる…」
「身体機能も、人間に近いってこと…?」
「ええ。…これなら、生き返らせるわけじゃないから、禁忌ではない…はずだし、自然の法則にも反しないわ」
少なくとも死者の魂が死のプレーンに行かず、物に宿るのはよくある話よ。ブルーベリーは呟く。

「でも、何故…?どうしてブレッドは、こんなものを用意してるの…?」
「…ひとつ確かなことは、ブレッドの行動は彼の本意じゃない」
フレークは呟くと、考え込むブルーベリーの肩に手を置いた。

「行こう。長居すると、気付かれちゃうよ」









「2人とも、どうだった?」
ヴァニラの部屋(彼女は快く部屋を貸してくれ、席を外している)に集まり、短く打ち合わせ。
「外見をサブレそっくりに似せたマジックドール…みたいな人形があったわ」
「マジックドール…?サブレの魂をそっちに移そうって言うのかしら…?」
「多分、ね。それなら、オリーブが聞いてた話と照らし合わせても矛盾しないわ」

「問題は、サブレの成仏を望む立場のブレッドが、なんでそんなものを持ってるか、だ」
口を挟んだのはガナッシュ。
「生死を問わない…恐らく禁忌には触れないだろう形で、サブレという存在を存続させる手段を用意してる。
ブレッドは、手段を用意することにじゃなくて…あえてその手段を行使しないことに意味を見出してる気がする」
「…何、考えてるんだろ…?ブレッドも先生も…」
俯いて、そんな事をオリーブは言った。

「…出会うこと、別れること…」
いつの間にか、ヴァニラがそこにいた。
「彼らは、それを教えたいのじゃないかしら?」
「…ヴァニラさん」

「彼は今夜中、必ず私達皆を連れて死のプレーンに行くわ。
その時、今まで彼が隠していた全てを話してくれるはず。
彼が何を思ってこんなことをしたのか、彼自身はどうしたかったのか…全部、ね」
フレーク達の切羽詰った心境を知ってか知らずか、ヴァニラは穏やかに微笑む。



「ブレッドだって、サブレを見殺しにするのは辛いはずよ。
だからこそ…それはよくないことだと知りつつ、助ける手段を用意してしまったの」

「誰もが、彼女を助けたいと、何かをしていた。…それは、正しいことだって…私は思うわ」



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