漆黒の詩 -シッコクノウタ- 21
「ただいま……」
「……ただいま」
「……」
帰って来た三人組を見て、ガナッシュは思わず口をぽかんと開けて固まった。
そのうち二人は、所々服を焦がしたり、ボロボロで。
あと一人の女性はと言うと、二人の前に立って頬をふくらまし、そっぽを向いている。
「えーっと……」
「さっさと夕飯にしましょ」
「せ、先生……?」
「ガナッシュ、今の彼女には、何を言っても無駄さ」
服の埃を叩きながら、ボロボロのティンブラはガナッシュにそう言った。
その隣で、ボロボロのブレッドが腕を組んで困ったような表情をしている。
……珍しい。
「一体、何があったんだ?」
「それは、こっちの台詞だね。と言うか明らかに、僕巻き込まれたよね」
盛大な溜め息を吐くティンブラに、
ガナッシュは彼らにかける言葉を失って、仕方なく、視線を宙に泳がせた。
「災難だったわね、ティンブラ」
「まったく、本当にね!」
マドレーヌはと言えば、部屋にこもって出てこない。
ブレッドはと言うと、その扉の前に座り込んでいる。
シュガーに手当てをしてもらいながら、ティンブラは頬をふくらませた。
「結局、逃げる作戦も駄目になっちゃったしさ」
「やっぱり、見送らないつもりだったのね」
「……まぁね」
シュガーの言葉に、ティンブラが寂しそうな笑みを浮かべる。
彼がちらりとサブレを見ると、
彼女は、ローレルやノエルと一緒に、まだ夕食を食べている最中だった。
「だってさー。僕、泣くもん。絶対に」
「あら、それが怖かったの?」
「泣く所なんて、誰が見せてやるかっての」
ティンブラの言葉に、シュガーがくすくすと笑う。
ふと、そこにブルーベリーがやってきた。
「ねぇ、ティンブラ。彼女をここにとどめておく方法は……ないの?」
「……何故僕に聞くんだい? ブルーベリー?」
「何故って……。あなたなら、知っていると思ったからよ」
ティンブラとブルーベリーの視線が絡まる。
それを少しの間続けて……それから、ティンブラは首を横に振った。
「僕は…………知らない。彼女をここに留まらせる気も、ない」
「そんな……」
「悪いね、ブルーベリー。どうやら僕は、君らの力にはなれそうにない」
ブルーベリーの隣で、フレークが床を叩いた。
彼らしくない動作に、けれどもティンブラは驚く様子もなかった。
「時間がないのに……! って?」
「……そうだよ」
「諦めるんだね。彼女にとっても、消えるのが一番良いんだ」
「黙って聞いてれば……!!」
フレークが、かかってきたのかと思った。
けれどもティンブラの胸ぐらを掴んだのは、意外にもキャンディだった。
彼女は、怒りというよりも、悔しそうな表情を浮かべていた。
「彼女がよくてもね、私たちが嫌なのよ!!」
「自分勝手だね」
「何とでもいいなさい! 時間がないの! 知ってるなら、教えなさいよ!!」
怒鳴るようにまくし立てるキャンディの手を、オリーブが掴んだ。
それに続くように、ティンブラの手が、ゆっくりとキャンディの手を開いていく。
「キャンディ……。ティンブラに、あたらないで」
「……」
「ティンブラ……。私たち、真剣よ。何か知ってるなら、何でも良いの。教えて」
「……僕は……許されざる魔術しか、知らないから。教えられない」
ティンブラの言葉を聞いて、ふと、ガナッシュが首を傾げた。
「許されざる魔術?」
「それは、禁忌。だからブレッドも、君たちに教えなかったんだ」
教えたら、君たちは必ず実行するからね。ティンブラは、悲しげな表情を浮かべた。
その言葉に、思わず黙り込んでしまう。
「それでも……あるんだね? 方法は」
「フレーク!?」
「フレーク。ティンブラの話を、聞いてなかったの?」
「聞いてたから、分かってるんじゃないか。それでも、方法はあるって」
無茶よ。ブルーベリーは、首を振った。
彼女の肩に手を置いて、フレークが首を振る。
「それが、僕たちが求めていることなんだよ」
「でも……リスクが大きすぎる!」
「確かに……禁忌の魔術と言えば、禁止されていることだ」
これにはさすがのガナッシュも、首を振った。
その様子を、心配そうにシュガーが見ている。
オリーブとキャンディが、そっと握り合う手に力を込めた。
「命が惜しくないなら、教えてやるよ」
それは、少しばかり悪魔の囁き。
ティンブラの言葉に、フレークはブルーベリーから手を離し、彼を見た。
「察しが良いなら、この言葉で分かるだろうね。……彼女はあの姿だけれども……結局は、死者だ」
「!! まさか……? それは、駄目。自然に反しすぎる!」
「ブルーベリー。だから、無理なんだよ。彼女をここに留めることは」
ティンブラから徐々に、その笑みが消えていった。
カリカリと、彼が爪で床をひっかく。
「あとは……ブレッドに聞いて。僕には、荷が重すぎる」
「……」
「何かあったら、呼んで。部屋にいるから」
ティンブラはそう言うと、すっくと立ち上がり、部屋への道を歩き出した。
途中、サブレの肩をぽんと叩く。
「君は、とっても愛されているね」
「……?」
ふとサブレが彼を見ると、彼はとても優しげな表情を浮かべていた。
そんな少年の後ろ姿を見ながら……。
サブレは、スープの最後の一口を飲み干した。
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