漆黒の詩 -シッコクノウタ- 20
「たっだいまーっ♪」
元気な女性の声。
「…おかえり」
対照的に元気の無い子供の声。
「…?どうしたの?」
「…なんか、柄でもなく、すごく憂鬱な気分で」
沈んだ表情のまま、呟くようにフレークが答える。
もはや彼ですら、苦笑する余裕も残されてはいない。
「…何かあったの?」
マドレーヌは理由を理解している。ヴァニラも何となくわかる。
サブレは、そんな彼らの心境などお構いなしに、声をかけた。
「………。何か、隠してない?」
「ぇ?」
そんなサブレに、シュガーが声をかける。
「たとえば、ブレッドのこと」
「いいえ?」
「それじゃあ、あの時ブレッドに何を言われたの?」
「今日の夜中、俺の部屋に来い…ですって」
「ブレッドの部屋に…なんで?」
「さあ?用件は教えてくれなかったわ。言うのもはばかられるようなことかしら」
「………」
『何だと思ってた?』くすくすと笑うサブレ。ついみんなもつられて笑うが、例外がひとり。
「…ブレッド…?何を考えてるんですか、あなたってヒトは…?」
ごごごごご。
(…ね、ねぇヴァニラ?マドレーヌ、いったいどうしちゃったの…?)
(ブレッドが二股かけようとしてる、って思い込んでるんじゃないかしら)
ひそひそと、ヴァニラとサブレ。
「…許さないんだからッ!」
ばさり。
「バカな、翼だって!?」
ガナッシュ、突然マドレーヌの背中に現れたモノを見て唖然。
「…先生、なんでだか知らないけど怒ってる。魔力も暴走気味みたい」
疲れきった表情のオリーブ。
「…じゃあ、帰ってくる頃にはきっとくろこげだね、ブレッドと他諸々」
「ぇ?ブレッドだけ…じゃないの?」
ぼやくローレル、聞き返すブルーベリー。
「思い出して?怒った先生が、今まで一度でも見境あったことは?」
『ありません』
「成敗してあげますっ!!」
やがて飛んでいってしまった。
「…っ」
後ろに気を取られすぎた。ティンブラがそう思った瞬間、そこは袋小路。
そして一度立ち止まってしまった今、退路は断たれた。
「観念しろ、ティンブラ」
入ってきた道を、追っ手のブレッドが塞ぐ。
「どいてくれる?ここで戦ってたら被害も大きいし、間に合わないかもよ?」
「だが断る」
にらみ合う。
「…覚悟しろ、ティ―」
「見つけたッ!」
ばさばさ。
「「…!?」」
マドレーヌ襲来。
「ブレッド、どういうことなの!?」
「どういうこと、とは?」
「サブレを部屋に呼んだことよ!どうするつもりなの!」
「さあ、な」
あまり余裕のなさそうなマドレーヌに対し、ブレッドは余裕綽々。
「…やっぱり、そういうことなのね!?」(二股疑惑の話)
「ならば、そういうことだ」(タイムリミットの話)
「…え、えーっと…?」(巻き込まれるフラグ)
「…ぶれっどのばかぁぁぁ!!」
すぺーすらいと。(無詠唱かつ127倍)
「ぐぁッ!?」
「げふんっ!?」
「………」
「………」
とりあえず、町のほうで爆発があったらしい。
「………」
「………」
加害者はマドレーヌで、被害者はブレッドとティンブラらしい。
「………」
「………」
何があったか知らないけど、ブレッドはマドレーヌの機嫌を激しく損ねてるらしい。
「………」
「………」
ブレッドは何かの誤解って言ってるけど、結局信じてもらえてないらしい。
「…ねぇ。どうしたの、あの2人…?」
まさか、自分のことでああなったとは思いもせず、きょとんとヴァニラを振り返るサブレ。
「きっと、なんでもない痴話喧嘩よ」
「…?」
辺りはもう暗い。時間はもう無い。
こんなことをしている場合ではないのに、と。
場の空気に流されるしかない彼らは、ただ悔やんだ。
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