漆黒の詩 -シッコクノウタ- 2
「怪物退治?」
「酔狂な話だね」
「こらそこ。そこのヴァリオール兄妹、口を挟まない」
ティンブラの話は、以下のようなものだった。
1・最近学校の周りで、正体不明のモンスターが夜な夜な徘徊してる
2・それなりに強いが、それでもある程度以上の実力があれば充分倒せる
3・数はひとつだけのようなので、今から狩ってこい
「無茶言うよね、ティンブラも」
呆れた風に、シュガーは言い捨てる。
「ローレル、ちゃんとついて来てるー?」
「うん、ちゃんといるよー」
彼らは今、前からシュガー・ノエル・ローレル・フレークの順で、縦に並んで歩いている。
「どんなモンスター、かな…」
普段ほえほえしているノエルにも、かなりの緊張が見て取れる。それはローレルも同じこと。
「ヒトの格好をしてるから、見ればすぐわかる…って彼は言ってたね」
答えるフレークは唯一、リラックスした状態にあった。
闇属性でもないのに、ニルヴァがふよふよと彼の周りを漂う。
彼は光が降り注ぐ昼間より、夜…それも雲に覆われた曇天の夜のほうが安らぐのだという。
この夜は、まさにそんな夜。星明りも月明かりも届かない、文字通り真っ暗闇。
「…いた。アレかな」
潜めたノエルの声を合図に少し散らばり、前に見えた人影へ少しずつ近づいていく。
はたして、ソイツはヒトの姿をしていた。
だが、その体は、ヒトとは似ても似つかない。
おぞましい何かを宿した、ヒト型のアンデッド。
「…タスケテ…タスケテ…」
抑揚無く、しかし、喉の奥からひねり出すような切羽詰った声。
「ココカラ…ダシテ…ェ」
不気味なソイツは、完全にこちらを察知したのか、ゆっくりと近づいてくる。
「…ッ!!」
皆が一様に恐怖に駆られて後ずさる。しかしコイツはなお、じりじりと詰め寄ってくる。
「…幾多の剣隙、数多の軌跡。刻め魂、斬り裂け虚空。剣の境地、ここに極まり」
長い詠唱を早口で唱え、シュガーが飛び込んだ。
「エクルヴィスっ!」
彼女が手をかざしただけで、無数の刃がモンスターを襲う。
うめき声を上げるモンスターは、姿勢を崩してよろめいた。
しかし、倒れない。
「烈風よ、此方に来たれ。そして切り刻め、幾多の刃の渦となりて…プノエーっ!!」
後ろからノエルも魔法を発動させる。
竜巻に閉じ込められ、風に身を切り裂かれても、やはりモンスターは倒れない。
「タスケテェェ…タスケテェェエエエエエ!!!!」
それどころか、モンスターはいきなり、ローレルらをめがけて走り寄ってくる。
「逃げよう!」
誰ともなしに叫んだのを皮切りに、一斉に彼らは逃げ出した。
「学校まで行けば…先生達がいる!」
後ろのモンスターは、少しずつ、しかし確実に、ノエルらとの距離を縮めつつある。
しかし、彼らと後者との距離は、一向に縮まらない。…離れすぎたか。フレークは内心舌打ちする。
彼らにとって都合の悪いことは、コレで終わらなかった。
「…はぁ…はぁ…ッ」
急に全力疾走を始めたために体力の消耗はいつもよりも早く、フレークとローレルが次第に遅れ始めた。
「ローレル…っ!ごほ、けほッ…!」
「大声を出しちゃダメ。呼吸が乱れて、追いつかれるのも早くなるわ」
彼を呼ぶノエルに対し、シュガーがそう忠告するも間に合わず、彼女も遅れていく。
仕方なしにブレーキをかけ、そのまま足を蹴りだして反対方向へ走る。
「……コンカッセ!」
ざんっ
てごたえはあった。しかし、傷を与えるに至る様子はまったくない。
さらにモンスターは、鋭く伸びたツメでシュガーを斬り裂きにかかる。
「…話が違うわ、ティンブラ」
「ガァァァァァ…!!!」
モンスターは、一度距離を開けたシュガーを追って走り出す。
「…!」
だいぶ息があがっている彼女に、埋まった距離を再び開けることは出来なかった。
だが、距離がそれ以上埋まることも、またなかった。
「…!?」
誰かが、シュガーの目の前でモンスターに立ち塞がっている。
「我が校の生徒に手を出すならば…罪無き亡霊とて容赦せん」
モンスターが振り上げた腕を片手で受け止め、あまつさえ押し返す男性がいる。
黒いバンダナの彼は、がら空きになっているモンスターの腹部に強烈な蹴りを叩き込んだ。
あれほどタフだったモンスターは、その一撃だけで容易に倒れ伏した。
起き上がろうとするモンスターに、男性は無詠唱でノヴァショットを放って更に追撃をかける。
「今のうちだ、マドレーヌのところに急げ。…早く」
フレーク達は瞬間的に彼に従い、何も言わず駆け出した。
「…はぁ…。…なんとか、ここまでこれた、ね」
「…あのヒト、大丈夫かな…」
フレークは、自分達が逃げてきた方を見やりながら呟いた。
「心配ないよ。…すごく強そうなヒトだったし」
ふぅ、と一息ついた後、ノエルがフレークに答えた。
「……シュガー」
「わかってる。…何かいるわね、校舎の中に」
「でも、行かなきゃ。先生に話してみれば、あのヘンなのについても、わかるかもしれない」
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