漆黒の詩 -シッコクノウタ- 19
――音?
何の?
――この角の、向こうから。
何の?
――地鳴りのように、近づいてくる。その、音。
ガンッ、ドガシャーン。
たぶん、音的にはそんな感じだっただろう。
額や手やお尻が痛い、と思うと同時に、あぁ、自分は今、痛みを感じてる。と、思った。
サブレはマドレーヌとヴァニラに助け起こされ、ぶつかってきた物を見やった。
……辺り一面に、買ったばかりの品々が散らばっている。
「……ティンブラ?」
「ったぁ……。……って、サブレ? に、マドレーヌにヴァニラさんじゃないかー」
彼は胸の辺りを手でさすりながら、こちらを見てきた。
まだ、地鳴りのような音がする。
と、思ったとき。それは、急停止した。
「あら、ティンブラじゃなーい。今まで、どこに行ってたの?」
「ははは、まぁ、学校に……」
「せっかく、サブレの歓迎会があったのに。勿体ない」
「仕事仕事! ほら、僕ってまじめだから?」
マドレーヌとヴァニラと話しながら、時折ティンブラはサブレを盗み見ていた。
そして、今気づいたかのように、慌てて物を拾い始める。
「あなた、サブレとのお別れの時にも、来ない気?」
「……」
「彼女を連れ出したのは、あなたなのにね。それって、卑怯よね?」
「……。僕の勝手だろう」
二人が何を話していたかは、サブレには聞こえなかった。
けれども、二人がこそこそと話をしているのだけは、口の動きで分かった。
「でも、ま……。僕がどうあらがっても、結果は変わりそうにないけどね」
「……どういうこと?」
「っと、はい。これで最後。……さて、いい休憩になったよ」
転がったすべての物を拾い終えると、
ティンブラはへらっと笑って、荷物をサブレに手渡した。
「落とさないように、気をつけてね」
「え、えぇ……」
「それじゃ、またねー!」
「……」
走り去っていくティンブラに、サブレは声を返す代わりに手を振った。
そして、彼の姿が角の向こうに消えた頃、振っている自分の手を見やる。
「彼、変な人」
「ふふ。本当にね。何をあんなに急いでいるのかしら」
「おおかた、あなたの彼氏辺りじゃないの?」
「な……! ヴァニラったらー!」
マドレーヌの横で、ヴァニラがくすくすと笑った。
サブレは一人、「彼氏?」と、疑問符を浮かべて首を傾げる。
その時、また遠くの方で、地鳴りのような音がし始めた。
「お別れ……ねぇ……」
フレーク達は、どうするのだろうか。
黙って、彼女が消えていくのを見ているのだろうか。
まるで、霧にとけていくように。消えていく彼女を、放っておけるのだろうか。
「向こうに持って行けるなら、何か用意するのにね」
苦笑を漏らすと、ちょうど通り過ぎた店のガラス越しに、何かが見えた。
きらきらと光る、それ。
クリスタルで出来た、鈴のような物。
「ん……?」
まだ、追いかけっこは再開していない……か?
ティンブラは後ろに数歩下がると、店の中に入っていった。
「っていっても、フレークー。サブレ達居ないよー」
もうすぐ、日が暮れようとしていた。
元いた場所から走り、時に歩き、
目的の人物を捜して、すでにどのくらいの時間が過ぎただろうか。
「時間が……ないのに」
へたり込むノエルに手を差し出すと、フレークは小さく舌打ちした。
その珍しい様子に、ローレルが視線をそらす。
「マドレーヌ先生達、行動が早いから……」
「町も、意外と広いしー……」
シュガーの言葉に、続けるようにしてキャンディ。
ガナッシュも辺りをきょろきょろと見回しているが、
だんだんと暗くなってきたせいか、人々の顔を確認するのが困難になってくる。
「このまま、見つからなかったら……」
ぽそりと、ノエルが呟いた。
「大丈夫よ、ノエル。大丈夫だから……」
そんな彼女を、シュガーが抱きしめる。
そっと頭を撫でると、ノエルはシュガーにしがみついてきた。
「いったん、戻りましょう」
「何かあったら、何をしてでも、先生は伝えてくるはずだよ」
ノエルの様子を見てブルーベリーが首を振りそう言うと、
オリーブが続けて、今度は首を縦に振った。
キャンディが腰に手を当て、ガナッシュが腕を組んで、その様子を見ている。
「なんか……運命に踊らされてるみたいだよね、僕ら」
苦笑混じりのローレルの言葉に、誰もが視線を落とした。
――天に、星々が煌めき始める。
終わりは、すぐそこだ。
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