漆黒の詩 -シッコクノウタ- 17
「な、なんでっ」
走る。
「僕がっ」
走る。
「追いかけられなきゃ」
走る。
「ならないのさーッ!」
ひたすらに、走る。
はっきり言って、捕まったら何されるか分からない。
だからティンブラは、ひたすらに走った。
町の道路を。家々の屋根を。木の枝の上を。
跳んで、走って、また跳んで走る。
「にしても……。きっと、ブレッドなんだろうな……」
ちらりと後ろの追っ手を見やると、先ほどよりも距離が縮まった気がする。
見知った、ニンジャの彼。
「こりゃ、捕まった方が楽かな……っ」
人の迷惑知らず。
町角から現れた人の肩を借り、壁を蹴って方向転換。
相手に通じないのは分かっているが、ティンブラはそうして、逃げた。
逃げて逃げて、逃げまくった。
「せっかくの休日、休んで潰すなんて……」
ぶつぶつぶつ。
小声で文句を言いながら、ティンブラはまた、後ろを見やった。
「かーんせー!」
「ふふ、私とマドレーヌの力作よ!」
「あぁ、いいんじゃないか? 似合ってるぞ」
「姉さん……」
マドレーヌ先生と、ガナッシュの姉ヴァニラに連れてこられた女性。
ブレッドは無責任に笑いながらそう言うと、隣で頭を抱えるガナッシュの肩をぽんと叩いた。
「わー! 綺麗ー!」
「あ、ありがとう……」
ぱたぱたと腕を振るノエル。
彼女に褒められて、女性……サブレは、うっすらと頬を赤く染めた。
――それは、生きている人。
「……」
「……? どうしたの? フレーク?」
「あ、いや……。なんでもない、シュガー」
「……?」
その様子を見て苦い表情を浮かべるフレークに、シュガーは首を傾げた。
聞かれて、慌てて体の前で手を振るフレーク。
シュガーはそんな彼に、再度首を傾げた。
「ティンブラも、くればよかったのにねー!」
サブレを見て、ローレルがにこりと微笑む。
その言葉を聞いて、サブレがなんだか、複雑な表情を浮かべた。
……ように、フレークには見えた。
「そうね! 勿体ない!」
「でも、町を歩いていたら、会えるかもしれないわね」
「え、そ、そんな……」
マドレーヌ先生とヴァニラの言葉に、サブレが小さく手を振る。
最初に比べたら、ずいぶんと柔らかくなった。
ノエルはそんな彼女を見て、後ろの方で、満面の笑みを浮かべた。
「ノエル、すごく嬉しそうだね」
「ローレルー。えへへー。そっちこそ」
「うん。だって、嬉しいもん」
と。そこに、ローレルがやってきた。
彼はノエルの頬をちょんとつつくと、にこりと笑った。
――仲間が増えて。
それは、嬉しいこと。
「でも……彼女、いつか消えちゃうんだよね」
「うん……そうだね」
けれども、途端にあることを思い出して。
二人の表情は、悔しさの浮かぶ物となった。
「消えても、仲間だってことは……変わらないかなぁ」
「うん……。きっと、変わらないよ」
「うん。うん……」
ぽすりと、ノエルが頭を預けてくるから。
ローレルは彼女を抱いて、その頭を撫でた。
「それじゃ、行ってくるわねー♪」
「あとよろしくね、ガナッシュ♪」
「え、ちょ……。きゃっ」
バタンッ♪
「……先生……姉さん……」
意気揚々と、そこを後にするマドレーヌ達に。
ガナッシュは一人、また頭を抱えた。
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