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リレー小説



漆黒の詩 -シッコクノウタ- 12



職員室に戻ってみると、扉が少し開いていた。
「…ぁ?」
手をかけて開けようとしたフレークが、皆を振り返って『しぃーっ』とジェスチャー。



「何?」
シュガーが尋ねると、彼は無言でドアの向こうを指差した。

ブレッドとマドレーヌが、窓辺に並んで外を眺めている。こちらには気付いていない。
「…へぇ?」
にやり。ティンブラが笑う。



2人は何か話しているが、あいにくよく聞こえない。
時々2人で笑ったり、マドレーヌが赤くなったり、ブレッドが懐かしそうに目を閉じて微笑んだり。

…マドレーヌの顔が赤いのはきっと眼の錯覚だ、うん。

そのうちマドレーヌがブレッドに何事か告げ、彼の肩に寄りかかった。



「………」
「………」
「…ティンブラ、どのくらい待てば入れると思う?」
「さあ?あーいうのは、放っとくと余計くっつくんじゃない?」
マドレーヌが赤面するところなど見たことがなかったフレーク。衝撃だったのか、動きがぎくしゃくしている。

全会一致で、このまま強行突入が決定。

「失礼しま―」
フレーク、再度石化。






「…なるほど、な」
アイスティーのカップから口を離し。その後『詳しいことはまだわからないが』と前置きして。
「俺が、彼女についてこの場でわかることは」

数秒、沈黙が染み渡る。

「彼女の体は実体を持っている。加えて、その体が死んでいた形跡は認められない」
それは通常ありえない、常識を置き去りにした現象。



「…そんなバカな」
呟くガナッシュ。
「…あなたは『彼女が生きてる』とでも言うんですか」
「生物学上、そう言わざるを得ない」
ブレッドは即答を以て返す。

「…何故、あなたはそう思うの?」
当の女性が、ブレッドに問いかけた。
「俺の目に映ったものを、俺なりに解釈したにすぎない」
まず彼は意味不明なことを口走る。

「その体は生命活動を行っている。それは…ティンブラ、おまえが知っているはずだ」
入ってきたとき、手を繋いでいたからな。ブレッドはティンブラを名指しし、回答を求める。

「…ブレッドが言ったことは、多分本当だ。…彼女の心臓は確かに動いていたよ」

「変ね。自分で言うのもどうかと思うけれど、ワタシはワタシの死体だったものを確かに見てる。
ワタシは確かに…あなたの言うところの『生物学上』死んでいるのよ」
女性の発言が、混乱を更に助長する。
「…ほう…?」

ブレッドが珍しく、『それは予想外だな』とでも言いたそうな表情を浮かべた。



「だとすると…? …まさかな」
「ブレッド先生…?」
真剣な面持ちで考え事を始めたブレッド。キャンディがおずおずと声をかける。

「推測が完成するまでに、少し時間がかかりそうだ」
「…まさか君が即答できないなんてね、ブレッド」
「俺は全知全能の神じゃない。…少し考える時間をくれ。その間にマドレーヌの意見も聞けばいい」



「………」
何故かマドレーヌは頬を赤く染めて、何か不満げな顔でじっとブレッドを見ている。

「…もう気にするな。タイミングが悪かっただけのことじゃないか」
「………」
何も言わず、ふいと顔を背けた。

彼らが入ってきたとき、ブレッドとマドレーヌが何をしていたのか。
あえて語る気はない。フレーク達も『この件については黙殺』が決定している。



ああ、語る気なんてないともさ。2人がキスしてたなんて、錯覚さ。偽の記憶さ、世界が見せた幻さ。



「…まったく。いつまでもそんな態度だから、おまえはおこs」
何か(多分『お子様』と)言いかけたブレッドの顔面に、分厚い本を投げつけるマドレーヌ。
どうやらクリティカルヒットだったらしく、衝撃で椅子ごと倒れ、しばらく床にうずくまる醜態。

「はいはいご馳走様。で、君の意見は?」
何やらワケのわからないことを言った後、ティンブラはマドレーヌに意見を求める。
「…なによご馳走様って。それはともかく…そうね…。聞いた限りじゃ、『複製された』としか思えないわ」

飛び出したのは、またしても常識をぶっ飛ばした発言。

「ありえないわ。どういうことなの、先生?ブレッドも先生も、さっきからわけのわからないことばかり」
納得などできるものか、とでも言いたげにブルーベリーが口を開く。
「私達はその教室に入ったわけじゃないから、あくまで推測の域を出ない話よ。
彼女は『自分が死んだ』ということを、自分の死体を見て確認してる。
だけどブレッドは『彼女の体は生物学的に見て死んでいない』って言ってる。ここまではいいかしら?」
その場の全員を見回して、彼女は話を続ける。

「彼の意見単独なら『彼女が生き返った』っていう意味で解釈されるわ。私の推測は、そこにもう1つの解釈を提示する」



「…何らかの原因で…『肉体のコピーが創り出された』?」
「現状、ソレしか考えられないの。原因も材料もわからないけどね」

「…それで、ブレッド?あなたの考えはまとまった?」
「…。ああ」
とりあえず復活していたらしい。いつのまにか椅子を直して何事もなかったように座っている。
「…じゃあ、後は彼が話をまとめてくれると思うわ」






「マドレーヌの話も考慮に入れて、大体まとまった」
ブレッドは静かに語りだした。

「要点は3つ。…詳しい説明は一切合財省略するので、そのつもりで。
1つ。事故によって安定を欠いた空間が、法則の歪みと矛盾を引き起こした。
2つ。その結果生まれた『魂=肉体』という歪んだ定義に従い、魔力によって生前の肉体が複製された。
3つ。結界が消滅したことによって、法則と時間は正常な状態に戻り、彼女が成長を始めた」



「…で?結局のところ、彼女はどういう状況にあるわけ?」
興味なさそうに、だらけた表情でティンブラは問いかける。

「端的に言えば、転生したようなものだ。…まさに『生き返っている』といえる」
「…それじゃあ」
どこからかあがった、期待を込めた声。



「少なくとも数日は、普通の人間と何ら変わらない生活を送れる」






はしゃいだら先生コンビに叱られました。






「…まったく、お前らと来たら」
「今が夜の何時か、わかってるんでしょうね?」
「近所迷惑もいいところだから」
「大声は出しちゃダメ。いい?」

見事にシンクロしてました。

「ともかく、手放しで喜べる状況ではないことを忘れるな。
『少なくとも数日』ということは、『数日の間だけ』ということでもある。
その後いつ消えるのかは俺にもわからない、ということは覚えておけ」

「…ええっと…?」
当の女性も状況においていかれ、きょとんとしている。
「あなたはもうしばらく生きていられるってコト。わかる?」
「……。そう」
女性は素っ気無い返事を返して、少し視線を落とした。表情はない。

「…すぐにでも、成仏したいのだけれど」
この世界に未練ができそうだから。



その一言で場の空気が冷え込む。

「そーんなシケたこと言っちゃダメだぞーっ?」
「っ!?」

…などと、常時はっちゃけてるこの先生が許すはずもなかった。

「ほらほらっ!みんなもそんなセンチな顔してないの!」



「…んー、見れば見るほどカワイイ顔してるじゃない」
「…だから、何故そういう話になるの…」
マドレーヌのテンションに終始圧倒される女性。
「今日は私の家に泊まっていかない?あなたに似合いそうな服とか結構あるわよ?」
「ぁー!?先生抜け駆けー!」
真っ先に反応を示すのはキャンディ。
「私も一緒に寝たいですよぅー!」
「…私も」
片や人懐っこく、片や控えめに、ノエルとオリーブも女性に迫っている。
「ほらほら、落ち着いて。こういうのは、焦って押しちゃダメなんだ」
なんだかんだ、ちゃっかり輪の中にいるティンブラ。



「「「………」」」
その場で落ち着き払っているのは、ガナッシュとブルーベリーとブレッド。
「…粛清用意」
「「了解」」






しばらくお待ちください






「…何か言うことは?」
『騒いでゴメンナサイ』

騒いでいたメンバー全員が頭にたんこぶをくっつけているのは、きっと気のせい。






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