漆黒の詩 -シッコクノウタ- 11
「あなた、凄く綺麗なのに。あんな所にずっと居るのは、もったいないわよ」
「え……?」
妙に一人、納得しながら話すキャンディ。
結構ショックな物を見せられたり、攻撃されたにもかかわらず、キャンディは彼女に楽しそうに話しかけた。
女性が、うろたえながらキャンディを見る。
……彼女は先ほどから、ティンブラの腕をぎゅっと握って、離れようとしない。
そのせいなのだろうか。
ぴったりと、ティンブラから左は女子組、右は男子組に、きっちりとわかれていた。
「えぇ、そうね。綺麗だと思うわ、あなた」
昔も、裏で騒がれてたはずよ。
くすくす笑うと、ブルーベリーも女性に話しかけた。
その横で、オリーブも何度か頷いた。
「それにしても、心の中に結界なんて……」
少女に左腕を掴まれつつ。
ガナッシュに話しかけられて、ティンブラは彼の方を見た。
「ブレッドは、このことを知っていたのさ。全く、おかしな人だ」
――知っていたなら、自分で行けばいいのにね?
ティンブラはくすくすと笑うと、ガナッシュを見やった。
その隣で、フレークとローレルがお互いを見て、首を傾げた。
「彼自身も、彼女を助けたかったんだよ。……まぁ、合格って所かな。フレーク、ローレル」
「あ、覚えてたんだ。もう、課題はなしになってるのかと思ったよ」
「むしろ、それどころじゃなかったしねー」
フレークとローレルは、お互いを見て「ねー?」と首を傾げて見せた。
それに、ガナッシュが呆れたような、何とも言えない表情をする。
ティンブラはそれを見て少女のようにくすくす笑うと、廊下の先の方へ視線を移動させた。
「目に見えるものが、全てじゃない。僕らは心で思うことで、それが本物だと思ってしまう」
それって、なによりも強い幻だよね。
ティンブラは苦笑のような笑みを浮かべると、ちらりと女性を見やった。
丁度、キャンディに髪やらを触られて、女性は嬉しそうな恥ずかしそうな、幸せそうな表情をしていた。
「でも……彼女は、実体なの? ティンブラ?」
女性を見て、ゆったりと微笑む。
と、彼に後ろから話しかけてきたのは、シュガーだった。
彼女は少しバツが悪そうな、複雑な表情をしていた。
「……それは、何とも言えないね」
「何とも言えないって……」
「でも、送り出さないといけないとは思う」
「……」
だって彼女は――……。
死んでいるはずなのだから。
シュガーにそう言いながら、彼は視線を逸らした。
どこか悔しそうな表情が、その横顔に浮かんでいる。
「そんな……。……なんか、それって……あんまりだよ」
シュガーの後ろから、ノエルが顔を出した。
せっかく会えた友達と、すぐさまお別れだなんて。彼女にとっては、悲しいことだろう。
いや……彼女といわず、この場の全員が、悲しむだろう。
それでも彼女は、もうここにいてはいけないのだ。
フレークが、きゅっと唇を噛んだ。ガナッシュが、女性から視線を逸らした。
「まぁ、まずはブレッドやマドレーヌに相談してからだ」
最終的にどうなるかは、彼らに話してからだよ。
ティンブラは空いている方の手でノエルの頭を撫でると、彼女に向かって笑みを浮かべた。
くすぐったそうに、ノエルが身をよじった。
もう少し。もう少しだけで良いから。
せめて、この人たちを。この学校を。
胸に刻みつける時間を、下さい。
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