お父さんのほうき -番外編-
「あちゃー…真ん中からぽっきり逝ってら」
さぁてどうしたもんかね。…赤い帽子の青年が、腕を組みつつ呟いた。
「…直せる?」
「何とかするさ」
覗き込んできた女の子に視線を向け、声をかける。
「ま、俺に任せておまえらは寝てろよ。疲れてるだろ?」
「え?でも、俺達にも何か…」
「寝る子は育つ!育ちたきゃさっさと寝る!」
何か言いかけた男の子を制し、女の子ともども2階に押しやった。
「理由にも根拠にもなってないっすよソレ〜」
「いいから寝る!よくなくても寝ろ!」
「…とは言ったものの」
再び青年は、目の前の折れたほうきに視線を落とす。
「いつもやってるみたいな鍛冶もどきで直るとも思えねぇし」
鍛えようものなら即刻燃え尽きてしまうだろう。ほうきは当然ながら木製だ。
「お困りかしら?」
「…ああ、だいぶ」
「やけに素直ね、ジーク?」
「リーベこそ、どういう風の吹き回しだ」
ドアが開き、そこから棒のような髪飾りをつけた少女が姿を現す。
余談になるが、ジークとは『Sieg』、リーベは『Liebe』から来た名前である。
前者は『勝利』、後者は『愛』を意味する。どちらもドイツ語だ。
「貸しを作っておくのも悪くないって思っただけ」
「この程度の貸しなんざ、すぐ返してやるさ」
互いに微笑みつつも軽く睨みあい、数秒。
「…で?どうするんだ」
「簡単じゃない、固定しちゃえばいいの」
彼女は白いリボン状の布を取り出した。
「ぐるぐる巻きにすれば、応急処置にはなるわ」
「テーピングか…確かに応急処置にはなるが、それだけだと不安だな…」
よし。ひとつ呟くと、ジークは外へと駆け出した。
「ちょ、どこ行くのよ?」
「ちょっと待ってろ!」
しばらくして、大きな金属の塊を持って戻ってくる。
「…オリハルコン?」
「ああ。テーピングついでにコイツを細長く加工して、芯にする」
「…そういうことには頭が回るわよね、アナタって」
「何とでも言っとけ…ほら行くぞ。ほうき持ってきてくれ」
「ぇえ?」
「顔出しついでだ、手伝え」
リーベの返事に関係なく、ジークは既に工房へ向かっている。
「…貸しの上乗せ、ね。明日、一日中財布になってもらうわよ?」
「別に構わん。常識わきまえた金額なら、安い貸しじゃないの」
足を止めずに返事して、そのまま彼はリーベを置いて先に行ってしまった。
(…あれ?明日、一日中…?)
自分の発言に、リーベは何か引っ掛かるものを感じる。
「どうした、リーベ!明日のおめかしのことでも考えてるのかー?」
「…ッ!?」
一日中、2人きりで買い物に出かけるというのと同義であり、
すなわちデートの誘いとほぼ同義だということに、今更気付いた。
オリハルコンを芯に加工し、その太さに合わせた穴をほうきに開け。
芯を通して折れた柄を繋げ、柄全体に白い布を2枚、交差させるように巻いていく。
柄の先端で布の余りを結んだ頃には、赤かった空が東の空が黒い闇に覆われていた。
「ふぃーっ、やっと終わったかぁ…」
「時間がかかったわね。…じゃ、私はコレで」
リーベはそう言って、ジークに背を向けた。
「ちょっと待て」
「何?私もいい加減眠いんだけど…」
「今日はどこに行くんだ?」
「!?」
「…一日中、俺を財布にするんだろ?」
「…アレは…、その」
リーベには、ジークがにやりと笑ったのがしっかり見えていた。
「言葉のあやとかって誤魔化すと、貸しについてもチャラになるんだが?」
「〜ッ!!」
「9時にジオのフルーツパーラー前!!」
「わかったわかった。そんな大声出すなよ、バドとコロナに迷惑だぜ」
「わかってるわよそんなのッ」
言うだけ言って、リーベはばたばたと走り去る。
「…何とまあ、からかいがいのない」
見送りながら、ジークはぼやく。
「まあ、明日おちょくってやりゃいいさ」
直したばかりのほうきを片手に、彼は家の中へ入っていった。
「あ。ほうき、直してくれたんだ」
「言ったろ?任せとけってさ」
「ありがとうございます、師匠!」
修理されたほうきを見て転げまわるバド。
「ガタが来たら言えよ?補修しなきゃならんから」
「うん!」
コロナも嬉しそうにしていたので、とりあえず一件落着。
「…ありがと、ジーク」
「礼はいらないっての。…ああ、それとだ。今日一日出かける用事があるから」
「またですかー?今日はいつまでです?」
「丸一日、財布にしてくれるそうだ」
「「…??」」
意味がわからず、バドとコロナは首をかしげた。
...fin?